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点字こうめい

<特別寄稿>エジプト考古学者・吉村作治氏

エジプト調査52年。
苦難あってこその
わが人生

 エジプト調査を始めて52年になりますが、実は2年ほど前、発掘現場での事故で膝を痛め、人工関節を入れました。今は、つえを使って歩くことが多くなりました。それまで体はどこも悪くありませんでしたが、足が少し不自由になって初めて、障がいがあるということは、なんて大変なのかと実感しています。リハビリも続けており、仕事量は以前より減りました。しかし、体が不自由であるということと、調査・研究は別の話です。今も年に4回はエジプトに行っており、今年は5回になる予定です。やりたいことは、生きている限り、どんなことをしてもやる。そう決めています。

エジプト考古学者 吉村作治氏
エジプト考古学者 吉村作治氏

 今はエジプトで5カ所の調査を進めており、ピラミッドの内部を外側からスキャニングして調べたり、クフ王の墓を探したりしています。実は私は、ピラミッドは王の墓ではないと考えています。では、どうすれば証明できるか。それには、本物の王の墓を探すのが一番です。

 エジプトには、今も見つかっていない遺跡がたくさんあります。3000年、4000年もの間、土の中に埋もれていたものを自分の手で取り出し、皆さんにお示しできる。そして、現代の人たちが知らないものを発掘して歴史を塗り替えられる――。それがエジプト調査の魅力です。私は75歳ですが、あと10年、20年は頑張って、発掘中に現場で生涯を終えたいというのが、私の希望です。

 人生は苦難の連続ですが、苦難から逃げずに、知恵を使って乗り越えることが大事です。私は子どもの頃、いじめられっ子でしたが、いじめっ子も図書室までは追ってこないだろうと考え、放課後は図書室でずっと本を読んでいました。そこで考古学者の伝記を読み、エジプトに興味を持つようになったのです。

 また、大学生になって、1966年に初めてエジプトに行った時のことですが、一番お金がかかるのが交通費でした。そこで、飛行機にただで乗せてほしいと航空会社に頼んで断られ、客船、貨物船も断られましたが、最終的には石油タンカーに乗せてもらうことができました。

 調査・研究も苦労が続きました。苦労の大半は「お金がない」ことでしたが、テレビ出演や講演などでお金を稼ぎました。4年、5年と掘って何も出てこない時期もありました。それでも「自分は運がいいんだ」と信じて努力を続ければ、運も開けます。私は、盗掘されていない墓を四つ見つけましたが、これは極めてまれなことです。

 苦難は、あればあるほど克服しようと頑張るから、何もない人よりも絶対に力が付きます。パラリンピックの選手たちを見ても、そう思います。苦難があってこそ人生です。苦難を乗り越えるには知恵が必要です。知識では乗り越えられません。2番目に大事なのは諦めないこと。諦めなければ、いつか必ず成就します。そのためには「覚悟」が必要であり、覚悟するには「夢」や「目標」が必要です。夢とは未来、将来であり、私たちは未来を見ていかなければなりません。私は教え子たちに説明したり、説教したりすることはありませんが、「夢を持って、夢を持ち続けて、夢に死ぬんだよ」ということは伝えています。

 障がいがあることは、とても大変です。私も身をもって感じています。しかし、目が見えなかったとしても、その分、何かが見えているということもあります。「見る」というのは、実際にものを見るというのと同時に、「本質を見抜く」という意味もありますから。この世に生まれたからには皆、一緒です。障がいがあろうがなかろうが、背の高い人と低い人がいるのと同じで、それほど大きな違いではありません。体が不自由な分、人に頼ってもいいし、自らの力で頑張ってもいい。人と違っていても気にしないで、自分のやりたいようにやればいい。そう思っています。

東日本国際大学学長、早稲田大学名誉教授