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点字こうめい

<特集>毎日休まず、視覚障がい者向けに新聞を音訳

「日本福祉放送」の舞台裏に迫る

 日本で唯一、視覚障がい者向けの音声番組を制作している「日本福祉放送」(JBS=川越利信代表、大阪市都島区)は、放送開始から30年が過ぎました。新聞の音訳を中心にした番組は、目の不自由な人たちにとって貴重な情報源となっています。24時間365日、放送を続けてきたJBSの舞台裏に迫りました。

点字こうめい79号①特集★
視覚障がい者向けの音声番組を制作している「日本福祉放送」(JBS=川越利信代表、大阪市都島区)の放送ブース

 「9月28日、1面、朝日新聞トップは――」。

 放送ブース内には、新聞のページをめくる音とともに、記事を読み上げる女性の穏やかな声が響きます。JBS一番の人気番組である「今日の朝刊」の一コマです。毎朝10時~12時まで、音訳ボランティアが生放送で読売、朝日、日経、産経の各紙の主な記事を読み上げます。

 この日は、音訳ボランティアの女性4人が担当。彼女たちの手元には赤鉛筆で囲んだり、読み上げやすいよう独自の記号が書き込まれた紙面が置かれています。一人が音訳している間、他の担当者は読み上げの練習をしていました。

 音訳は1面トップの記事から始まり、「天声人語」や「編集手帳」などの各社のコラム、社説を紹介。続いて、内政総合、国際面や経済面などを次々と読み上げていきます。2面以降の記事の選択については、その日の担当者に任されているそうです。

 放送の中では、「基線、基本となる線のことです」と同音異義語の漢字を説明したり、掲載写真について「口をへの字に曲げている。多くのマイクが当事者に向けられています」など、リスナーが情景をイメージしやすいように読み上げる場面もありました。

 12時になり、生放送は終了。その後の反省会では、「数字のイントネーションがアナウンサー読み(標準語)と違うね」「自分の読み上げた文章を録音したり、ラジオのアナウンサーのナレーションを後追いすると、早くアナウンサー読みに近くなるよ」など、気がついた点や音訳の上達方法について、先輩が後輩にアドバイスする様子も見られました。

    ◇

 JBSを運営する社会福祉法人「視覚障害者文化振興協会」は、1988年4月から前身となる視覚障がい者専用放送「盲人放送サービスふれあい音友」を開始。以来、「いち早く世の中の動きを知りたい」との視覚障がい者の声に応えるために、24時間365日、有線ラジオ放送(USEN)やインターネットなどで休むことなく放送が続けられています。リスナーは全国に6000人ほどおり、企業からの寄付金などで運営されています。

 現在放送しているのは「今日の朝刊」のほか、パソコンやインターネットの便利な使い方などを紹介する「IT情報アップデート」、童謡や歌謡曲の歌唱指導をする「心のうた」などで、いずれもリスナーから根強い支持を得ています。

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 生放送で正確な音訳情報をリスナーに届ける陰には、音訳ボランティアによる並々ならぬ努力と苦労があります。中には、「朝3時に届く朝刊にすぐ目を通し、読み方の確認をしている」という勉強熱心な新人ボランティアもいます。

 また、姜貞眞(カン・ジョンシン)さんは2007年から、自身が大病を患った経験をきっかけに、JBSで音訳ボランティアを始めました。

 現在は月3~4回、朝刊音訳のボランティアとして活動。「前の人の内容を踏まえて自分の担当紙を続けて読んでいけた時の臨場感がとても楽しい。感情を込めない音訳には、それぞれの人の味が出るので、それも醍醐味です」と語っています。

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 「新聞を読みたくても読めない視覚障がいのある人に、その日届いた新聞の内容を何とかして伝えたい」。こう語るのは開局当初から音訳ボランティアとして携わる、「JBSボランティアの会」代表の渡辺典子さんです。かつて大阪府内の社会福祉法人で音訳図書制作のボランティアをしていたところ、川越代表に新たな事業を立ち上げるので手伝ってほしいと声を掛けられました。

 そんな渡辺さんには、忘れられない出会いがあります。それは、リスナーである全盲の高齢男性が交流会で「僕は普通の生活で目が不自由であることは構わない。だけど、新聞だけは自分の目で読みたいんだ」と話していたことだといいます。

 新聞休刊日には、渡辺さんが中心講師となって、より良い放送をめざし、生放送での注意点などについて音訳ボランティアたちと学び合う勉強会を開催し、参加者同士で毎日の放送中に困った事例を共有しています。

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 一方で、音訳ボランティアの減少や高齢化が大きな課題です。

 そこで、JBSは2018年末から19年初頭にかけて、音訳ボランティアの養成講座を開催し、20人の新たなボランティアが誕生しました。

 講座の内容は、日本語の基本やアクセントを学ぶことから始まり、発声の基本となる腹式呼吸の仕方などを学びます。その後、新聞の見方や音訳の基本を学びながら、耳だけを頼りにしているリスナーの立場に立って実践していくことを心掛けています。

 代表の渡辺さんは、「あくまでもリスナーが主役で、音訳ボランティアは黒子に徹すること。きれいに読もうとせず、耳で聞いてすぐに分かるのが良い音訳です」とした上で「私たちの中には、アナウンサーなどプロはいませんが、一人一人が音訳のプロであるとの意識を持って、これからも放送を作っていきたい」と決意を語りました。
 
 

■JBSの主な聴取方法

①インターネット
検索サイトで「JBS日本福祉放送」と検索してください。JBSのトップページの中央に現在放送中の番組が表示されています。聴取料は無料。
②有線ラジオ放送(USEN440)
③衛星放送(CSサウンドプラネット)
聴取には初期費用や毎月の利用料が必要です。音声で操作できるリモコン付き。問い合わせはJBS(06-4801-7400)へ。
 
 

■情報保障、災害時に役立つラジオ放送/JBS代表の川越利信氏に聞く

 ――JBSが果たす役割は。

 高齢化が進む現在、情報保障の観点から活字を音訳して必要な人に届けていくべきだと考えています。

 私は、人が社会生活を送る上で欠かせない情報には2種類あると考えます。一つは新聞など活字として公表されたものです。これは障がいの有無にかかわらず、アクセスできないと社会変化に対応できず、弱い立場に置かれます。この点、JBSでは一般に公開されている活字情報をラジオという形に変換して、視覚障がい者に届けています。

 もう一つは、一般のメディアが扱わない視覚障がい者に直接関わる生活面での情報です。例えば、大学受験や就職の仕方、日常生活における新鮮な食材の選び方や安全な調理方法などで、JBSでは、点字・音声文化をベースにした生活情報に関するさまざまな番組制作も行ってきました。

 ――1995年の阪神・淡路大震災では、JBSの放送が大いに活用されたそうですね。

 当時、JBSは大阪と東京にスタジオがあり、新聞の朝刊を大阪で、夕刊を東京のスタジオから放送していました。しかし、震災で大阪スタジオは使用できなくなり、放送を全て東京から行うとともに、安否情報を現地から送ってもらい、JBSで放送して、ボランティアにつなげたことで、1800人超の安否確認に貢献することができました。

 世界から多くのメディアが現地に来ましたが、全国、世界に向けての情報であって、被災者に直接役立つ情報ではありませんでした。災害の時には電話による情報伝達に限界はありますが、ラジオは強いと感じました。

 ――JBSの当面の課題は。

 やはり、資金面でのやりくりは大変です。盲導犬は身体障害者補助犬法ができて以降は、テレビでも取り上げられるなどして寄付金も集まりやすくなってきましたが、それでも30~40年を要しました。2019年6月に視覚障がいのある人の読書環境を整える読書バリアフリー法が成立しましたが、その対象は点字図書などに限られており、JBSが行っている新聞の音訳などの著作権には関わりがありません。今後も文化庁への働き掛けなど、著作権の課題はクリアしていきたいと考えています。

 その点、オーストラリアは先進国で、視覚障がい者のための著作権料が無料だったり、専用ラジオ放送の初期費用は連邦政府が負担するなど支援が手厚いのです。日本にも知的能力や認識能力に異常はなくても、学習が困難なディスレクシアの人などがいます。そうした人たちのためにも、活字文化を音声に変換するラジオ放送の存在意義は、ますます大きくなっていくのではないでしょうか。