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新型コロナ関連

「コロナ差別」なくすには/新潟青陵大学大学院 碓井真史教授に聞く

2021年5月8日付
新潟青陵大学大学院 碓井真史教授
新潟青陵大学大学院 碓井真史教授

新型コロナウイルスに関連した差別や偏見がいまだに相次いでいる。感染した人やその治療に当たる医療従事者、クラスター(感染者集団)が発生した学校や飲食店などが、誹謗中傷の対象になり、不当な扱いを受けるケースも後を絶たない。コロナ差別をなくすにはどうしたらいいのか。その実態や要因、対策について、新潟青陵大学大学院の碓井真史教授に聞いた。

■(要因)実態変わらず深刻化も/“自粛警察”など行き過ぎた行動は根底に強い不安、恐怖

駄菓子店への張り紙を手にする店長=昨年5月 千葉県
駄菓子店への張り紙を手にする店長=昨年5月 千葉県

――コロナ差別の現状をどう見るか。

碓井真史教授 未知のウイルスとして広がり始めた1年前と比べれば、コロナに対する理解が進み、差別や偏見が減ってもよいはずだ。しかし残念ながら、実態はあまり変わっていない。差別や偏見はいまだに生まれていて、一部で深刻化している事例もある。

コロナ差別の根底にあるのは、コロナへの強い不安や恐れだ。心理学において不安は、目に見えないものや未知のものに対して抱く感情とされている。人間は、ウイルスのような肉眼で認識できないものに対しては、不安を強く抱く。感染症が広がり、不安が強くなると心が内向きになり、よそ者を排除しようとする。同時に、不安をかき消そうとして、行き過ぎた行動を取ってしまいがちな面も出てくる。

これらは人間としての本能だから仕方がない。ただ、その本能と、行政による自粛要請などが合わさることで、行き過ぎた差別や偏見が生まれてしまっていると見ている。

――どういったケースがあるか。

碓井 よく見られたのが、飲食店に匿名の張り紙などで休業を求める行為や、県外ナンバーの車に石を投げつけるなど、いわゆる“自粛警察”と呼ばれる事例だ。

これらの動機は、ただのいたずら半分にやっているものもあるが、むしろ「自分の家族を守りたい」「街を守りたい」との思いが勢い余ってしまっている場合が多い。しかも、本人は差別をしているつもりがなく、正しい行為だと思っている。そこがこの問題の根の深いところだ。

■ネット社会が助長

――「ネット社会」の進展による影響もあるか。

碓井 インターネット上で発言や情報が拡散される影響は大きい。差別や偏見の言説が、かつてよりも増幅されてしまう傾向が強くなっている。例えば、ネットニュースのコメント欄は一方向に流れやすい性質がある。誰かが差別的な発言をすると、同じような意見が大量に並んでしまい、他の意見が出づらくなる。すると、コメント欄を見てその意見が当然だと考えてしまう人が増えてしまいがちだ。

心理学では、人間は自分が“標準”だと思い、皆も自分と同じような考えだと思う傾向がある。ネット上のコメントこそが広く共通の意見であり、それに基づいて行動することは、むしろ良いことだと感じてしまう人が出てきてしまう。

■(対策)カギは「事実」広めること/相手の理解につなげる伝え方の工夫も重要に

――差別をなくすには、どうしたらいいのか。

碓井 まず、差別や偏見は、いじめと同じで、なくすのは難しいと自覚する必要がある。一人一人が差別や偏見を持つ人間であるという意識に立って、どうすべきか考えるようにしていかなければいけない。

そこで重要になるのは教育だ。コロナの危険性や差別の実態を国民に正しく分かりやすく教えて、よく認識してもらう必要がある。

1年前にアメリカ心理学会がコロナ差別を止めるための提言を出した。この中で私たちにできることとして、▼「事実」を広める▼社会的に影響力を持つ人たちを巻き込む▼感染経験者の声を広める――ことなどを示している。

例えば、医療従事者の奮闘ぶりやコロナに感染した人の回復ぶりを具体的に伝えることは、これらの人々への差別や偏見をなくすために効果的だ。

カギを握るのは、情報発信を担う行政やマスコミ、影響力のある人々(インフルエンサー)であり、彼らの積極的で賢明な行動が不可欠だ。

――では、国や自治体ではどのような対策が必要か。

碓井 コロナ差別の防止に向けて条例を制定する自治体が出てきている。そうした法整備は一つの有効な手だろう。ただ、法律ができれば自動的に差別がなくなるわけではなく、どう活用するかが大事だ。

国民の協力を得るためには、行政や専門家が情報をいかに上手に伝えるかという「リスクコミュニケーション」の質を高めることが求められている。そこには情報の正確性と共に、相手が情報をどう理解するかという視点が欠かせない。

例えば、「1時間に100ミリの雨が降る」と発信するだけでは、深刻さが伝わらない。「今までに経験のない大雨」「直ちに命を守る行動を」などのように、より多くの人に伝わる言葉を使うことが重要だ。差別をなくすことに特効薬はなく、地道に続けるしかない。一人一人の努力と、それをけん引する行政のリーダーシップが大事だ。

■浮き足立つ一人一人の心/否定より共感示す努力を

――個人ではコロナ差別と、どう向き合うべきか。

碓井 今、私たちの心は少し浮き足立っている印象がある。ちょっとしたことで相手を怒鳴りたくなったり、責めたくなったりしているような状況だ。だから小さなきっかけで、新たな差別や偏見が生まれてしまう可能性が常にある。

過去の例から見ても、伝染病はいずれ収まるが、差別や偏見はなくならない。ハンセン病などの例でも明らかだ。一人一人がコロナを正しく恐れることができる「心の余裕」を持っていきたい。

ウィズコロナの時代においてはまず、職場や地域には、さまざまな感じ方の人がいるという認識を大事にしてほしい。考えが違う人を責めても何の解決にもならない。否定するのではなく、共感を示すよう努力することが差別や偏見を防ぐ大きな一歩になると確信している。

■(行政の取り組み)一部の自治体、条例制定や被害対応

コロナ差別に悩んだときは人権相談窓口
コロナ差別に悩んだときは人権相談窓口

コロナ感染者や医療従事者への差別や偏見を防ごうと、政府が意識啓発などに取り組むほか、一部自治体では公明党も推進し、条例制定や被害への対応などが進められている。

例えば兵庫県明石市は、コロナ感染者らに対する差別禁止と市の支援を定めた条例を4月から施行。市が専用の相談窓口を設け、SNS(会員制交流サイト)などで差別された市民に代わって運営会社に削除を求めたり、加害者に対する行政指導などを行う。

福井県では、コロナ感染者へのインターネット上の差別や誹謗中傷について、人工知能(AI)を使って情報収集する取り組みを昨年11月から始めた。SNSの書き込みのスクリーンショット画像などを県が保管し、被害者から相談があった場合は証拠として提供する。県が幅広く情報収集することで、差別の抑止効果を狙う。

一方、法務省は、コロナ差別に対応するため、人権相談窓口をホームページ上で紹介【上に掲載】。啓発動画やリーフレットなども公開し、正しい知識や情報に基づいて行動するよう呼び掛けている。

■政府、ワクチン巡る指針策定へ

さらに国は、コロナワクチン接種の有無により起こり得る差別にも備えており、接種しないことが不利益や差別につながらないようにしていくためのガイドライン(指針)を策定する方針だ。

うすい・まふみ 1959年、東京都生まれ。日本大学大学院文学研究科博士後期課程心理学専攻修了。専門は社会心理学。2006年から新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市のスクールカウンセラーとしても活動する。