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新型コロナ関連

コロナ禍でもがん検診不要不急ではない/東京大学医学部付属病院 中川恵一准教授に聞く

2021年1月26日付

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、がん検診の受診率が減少して問題視されている。前回の緊急事態宣言が解除された後の昨年6月以降は徐々に回復しているが、今回の宣言再発令でさらなる落ち込みが懸念される。がん検診の必要性について、東京大学医学部付属病院放射線治療部門長の中川恵一准教授に話を聞いた。

中川恵一准教授
中川恵一准教授

■受診率低下に危機感/早期発見できれば命救える

 ――がん検診の受診率が低下している状況をどう受け止めているか。

 中川恵一准教授 確かに受診率は低下していて、非常に強い危機感を持っている。国内で最も住民検診を実施している日本対がん協会が全国の支部の協力を得て実施した調査では、受診者の月別推移は、緊急事態宣言が出た昨年4、5月は落ち込みが激しく、前年比で90%近く減少した。

 これは、宣言下で厚生労働省が検診の延期を求め、医療機関が一時休止したこともあり、やむを得ない。その後、6月は前年の35%程度、7月は62%まで持ち直している。

 がん検診は通常、春と秋に行われる場合が多い。春の受診率が減少した分が秋で回復している可能性もあるが、キャパシティー(受け入れ能力)の問題もあって、1日にこなせる件数には限りがある。対がん協会の調査では、通年で受診者数が3割減少すると見込む支部も多く、その場合、がんが発見される人の数は4000人近く少なくなる。

 通常は1~3月はがん検診の閑散期でほとんどやっていない。ただ、ここでやらない限り、今年度の遅れを取り戻せないので、ぜひ検診を受けてもらいたい。

 私が昨年10月に上梓した『コロナとがん・リスクが見えない日本人』【左下参照】でも書いたが、日本人の死因トップはがんで、年間死亡者数は約38万人だ。新型コロナは、適切に対策を講じなければならないのは言うまでもないが、国民病への備えも怠ってはいけない。

 ――受診率を上げていくためには。

 中川 まず、国民が抱くイメージの払拭が欠かせない。がん検診にとって悪いタイミングで、再び緊急事態宣言が出ているのが現状だが、がん検診が不要不急かというと、そうではない。

 というのは、がんは、かなり進行しない限り症状が出にくい病気で、早期がんで症状が出ることは、ほぼない。

 一般的に、痛いとか苦しいとなれば病院に行くが、症状がなくて体調的に問題ない状態ならば検査をする必要がないと思っている方々が多い。そのイメージにコロナ禍が相まって不要不急と誤解されている。

 一つのがん細胞が、検診で発見できる1センチ大になるまでに要する時間は10~30年といわれ、その1センチの病巣が2センチになるのに2年弱しかかからない。このまま受診控えが続けば、例年なら検診で見つかったはずの早期がんが放置され、多くの人の体内で1~2年かけて進行がんに成長していくことになる。

 例えば胃がんでは、ステージ1の5年生存率は98%だが、ステージ4になると8%なので、今後、胃がんで死んでしまう人が増えるということだ。こうしたことからも、検診は定期的に受けてもらわないといけない。

 ――がんの部位によって受診率に差はあるのか。

 中川 がん検診の受診率で突出して減少しているのは胃と肺だ。また、衝撃的な数字として、国立がん研究センター中央病院では、今年度の上期に当たる4~10月の胃がんの外科手術件数が昨年の同時期に比べて41%減少し、東大病院でも43%減だった。

 今後、高齢化によって20年間はがんは増えると予想されている。だから、本来なら胃がんの治療件数が減るなんてことはあり得ない。肺がん検診が減っている理由は定かではないが、胃がんは胃カメラで検査し、検査を受ける側とする側が近くなることが不安視されて減っているのだろう。

■医療機関は対策を徹底 安心して受けてほしい

 ――新型コロナの院内感染を恐れて受診自体に不安を持つ人がいるということか。

 中川 おそらくそうだろう。しかし、医療機関では感染対策をしっかり行い、今回は、緊急事態宣言下でも検診を延期せずに受け入れているところも多い。医療スタッフや職員は、感染リスクが高い会食を禁止し、家族以外とは極力会わないように徹底されている。「3密」を防ぐためにも、予約制にして人数を絞り、検診体制を見直しているので安心してほしい。

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