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新型コロナ関連

テレワークで変わる社会/コロナ対策で実施企業増加/東京工業大学・比嘉邦彦教授に聞く

2020年5月9日付

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、自宅などでのテレワークを実施する企業が増加している。現在の状況が将来の企業経営や働き方に与える影響について、日本テレワーク学会特別顧問の比嘉邦彦・東京工業大学教授に聞いた。

東京工業大学・比嘉邦彦教授
東京工業大学・比嘉邦彦教授

■労働の価値を考え直す時/本格導入には最低半年が必要

 ――テレワークの実施状況をどう見るか。

 比嘉邦彦・東京工業大学教授 経団連が4月に所属する大企業に対して行った調査結果によると9割以上がテレワークを実施している。ただ、東京商工リサーチが同月に行った調査結果では、中小企業の実施率は2割程度と低い状況だ。

 テレワークを実施しない企業は、できない理由として、適した業務がないことのほか通信設備や書類の電子化など環境が整っていないことを挙げている。

 しかし、テレワークはホワイトカラー(事務系の職種)のほとんどで導入可能であることが欧米などで実証されている。社内体制についても成功事例などを参考にすれば環境整備は十分に可能だ。

 同じ時間、同じ場所に集まって仕事をする意味について、社会全体として考える時ではないか。今回を機会に企業経営、働き方を変えなくては、今後来る、人工知能(AI)などを使った新しい時代を日本は生き抜けなくなる。

 ――働き方として定着するか。

 比嘉 今回、約6割の企業が突然テレワークを始め、さまざまな課題に直面している。成功している企業は、やはりコロナ問題の前から導入している。

 本来、テレワークを正しく実施するには半年から1年程度の準備時間が必要になるので、課題が出てくるのは当然だ。企業ごとに課題は違う。一つ一つの自社の課題を解決していくことが大切になる。

 社会に根付くかは、緊急事態の今を、テレワークの準備期間と捉えて、各企業が対策を進められるかにある。企業経営者、労働者がテレワークの利点を理解するかどうかが、社会に定着するかどうかのポイントになる。

■経営者にも大きな利点/マネジメント人材の育成が急務

 ――テレワーク導入のメリットとは。

 比嘉 テレワークは昔から、正しく導入されれば、「社会」「労働者」「経営者」の「三方よし」のツールと呼ばれている。

 社会に対しては、人口の一極集中の是正、移住などによる地方創生への貢献、高齢者や障がい者などの通勤弱者への就業機会の確保になるとの意義がある。女性が出産や育児で仕事を辞め、30代を中心に就業率が下がる「M字カーブ」の解消も期待できる。

 労働者にとっては、通勤時間が減り、育児と介護との両立など生活と仕事のバランスを図ることができる。さらに、住む場所についても選択肢が大きく広がることになる。

 経営者には、コスト削減や人材確保、人材活用というメリットが大きい。社員のテレワークが進めば、オフィス賃料や通勤費を大幅に削減できる。人材確保の面では、テレワークを導入した結果、求職者が大幅に増えた事例もある。

 人材活用という点では、定年退職後も働きたい高齢者や出産でリタイアした女性の経験値を生かしやすくなるといった利点もある。

 ――これまで日本で根付いていない理由は。

 比嘉 経営者にとっての利点が十分に伝わっていないことが一番大きい。テレワークを「労働者のための福利厚生」と見ている経営者が多いのが実態だ。

 また、企業の管理職には、顔と顔を突き合わせたコミュニケーションを取らないと仕事が進まないとか、出退勤管理できないと考える人が多いのも課題だ。本来、管理職が行うのは出退勤管理ではなく、仕事の管理であるはずだ。そこの意識を変えないといけない。

 そういった意味ではテレワークのマネジメントが重要になる。管理職は、部下の能力を把握し、適切に仕事を割り振らないといけない。そうでないと、従業員が無理をして隠れてサービス残業をしてしまうケースがある。日本の企業で、テレワークをマネジメントできる人材は多くはないだろう。ノウハウを蓄積していかないといけない。

■公文書の電子化を早く/政府は成功例の収集・発信を

 ――導入費用やコミュニケーション、在宅勤務のストレスなどを心配する声もある。

 比嘉 ノートパソコンや通信機器、書類の電子化といった体制の整備については、既に導入費用を補助する仕組みはあるし、相談体制も整ってきている。

 また、人間関係については、テレワークであっても週1回、月1回は出社して顔を突き合わせるといった体制で円滑にコミュニケーションを取っている企業もあるので、参考にしてもらいたい。

 小さな子どもが家にいると仕事にならないとの声もある。家族にテレワークは休みではなく仕事だということを理解してもらうことが必要だし、会社側も、そうした労働者の状況を把握して配慮することが大切になる。

 ――行政の役割をどう考えるか。

 比嘉 今回、テレワークを実施した企業が、どういう問題に直面し、どう解決したのかの情報収集を進めるべきだ。集めた情報を公開し、業界、業種を超えて共有することで、解決方法が広まる。

 行政機関に求めたいのは、紙で提出しないといけない公的文書をできるだけ電子化することだ。公務員のテレワーク化も重要であり、民間に要求するだけではなく、自分たちも範を示してもらいたい。

 実際、米国では20年以上前から連邦政府職員を対象にテレワークの導入を進めている。今では、実施率など細かく目標が設定されており、目標を達成できない時の罰則もある。

 テレワークで潜在的な働き手を掘り起こせば、税収増にもつながる。行政にも大きなメリットがあるので、今回の緊急事態を機に、日本全体で取り組む機運につなげてもらいたい。

■中小企業に導入費を助成/派遣社員も支給対象に/厚労省

 厚生労働省は、2月17日~5月31日に新たにテレワークを導入した中小企業に対し、100万円を上限に費用の2分の1を助成している。パソコンやルーターといった一般的な通信機器のレンタル費用も対象になっている。

 さらに厚労省は4月28日、同助成金の対象を拡大し、派遣労働者を2月17日にさかのぼって対象に含めた。

 同助成金は正社員や無期雇用の非正規労働者が対象で、就業先の企業に直接雇用されていない派遣労働者はこれまで対象外だった。

 コロナ禍の中で、テレワークをさせないなどの事例があることから見直した。

 *ひが・くにひこ 米アリゾナ大学で博士課程修了。米国ジョージア工科大学助教授などを経て現在、東京工業大学環境・社会理工学院教授。日本テレワーク学会特別顧問。専門は経営情報システム、テレワーク、クラウドソーシング。主な著書に『クラウドソーシングの衝撃』(共著)。