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新型コロナ関連

必要な子どものケア/和光大学・菅野恵教授

2020年4月11日付

新型コロナウイルスの感染拡大防止のための一斉休校から1カ月余り。新学期を迎え、再開した学校もあるが、感染拡大が警戒される地域では5月まで休校を決めた学校も多い。休校や外出自粛といった「非日常」が子どもに与える影響や、学校側のケアのあり方について、児童心理に詳しい和光大学の菅野恵教授に聞いた。

和光大学・菅野恵教授
和光大学・菅野恵教授

■(長期休校の影響)喪失感、自粛でストレス/意欲低下し不登校リスクも

――一斉休校の子どもへの影響は。

菅野恵教授 休校の生活に上手に適応できた子どもがいれば、リスク(危険性)を抱え、支援を必要としている子どももいるだろう。

そもそも子どもは、学校での学習や運動、部活動などでエネルギーを発散し、心身のバランスを保っている。休校により、家でじっと過ごすことを強いられる状況は、いわゆる「拘禁症状」に近い。子どもでも気分が沈んだり、うつ状態を招きやすい。自粛でストレスをためた子どもが、家族に暴言や暴力を振るっていないかも心配だ。生活リズムが崩れ、ゲーム依存などに陥るきっかけにもなる。

――3月上旬に休校が突然始まり、ショックを受けた子もいるようだ。

菅野 人は想定外の出来事に遭遇すると、トラウマ(心的外傷)になりやすい。しかも今回は、「学校があるのに行けない」「友達がいるのに会えない」といった「曖昧な喪失」が特徴だ。学年の総まとめや、友達との十分な別れができず、歯がゆい思いをした子どもは多かったと思う。

また、感染拡大への大人社会の不安は、子どもに伝わっている。大人ならば、その思いを語れるが、子どもは、うまく表現できない。感情を抑圧してしまいやすく、日常生活は元気そうに見えても、夜、突然目を覚まして泣いたり、おねしょといった形で不安が顕在化することも考えられる。

――休校は、保護者にも大きな影響があった。

菅野 子どもの世話をするため仕事を休まざるを得なかった親や、感染防止対策で在宅勤務している親もいる。仕事や生活のペースが乱れ、イライラを募らせている。その結果、虐待やネグレクト(育児放棄)のリスクが高まっている。既に虐待案件が増えているとの情報もある。注意が必要だ。

――その他のリスクは。

菅野 一般的に不登校児が急増するのは、夏休み明けだ。今回の長期休校で、3学期まで保健室登校も含めて何とか通えていた子どもの意欲が低下しかねない。再開した学校は、学級担任やスクールカウンセラーなどがチームで対応することを望みたい。

■(新学期の対応は)SOS早期把握へ/「心の健康診断」を

――再開した学校で、どう子どもを受け入れるか。

「心の健康診断」の例
「心の健康診断」の例

菅野 まず、多くの学校で実施してほしいのが「心の健康診断」だ【図参照】。アンケートを基に、リスクが高いと判断された子どもから優先的に面談などをするもので、SOSを早い段階で把握できる。

このようなアンケートを過去に策定したことがある学校はすぐに実施できるだろう。未策定の学校は、スクールカウンセラーと養護教諭、管理職が協力し、簡単な項目でも構わないので、早めに作り、心のケアができる体制を整えてほしい。

――心のケアに当たり心掛けるべきことは。

菅野 学級担任など大人が、子どもの感情を丁寧にくみ取っていくことだ。言葉に表現できない子どもには、「もっと遊びたかったね」と子どもの感情を代弁することも一助となる。

仲間同士で思いを共有する「ピアサポート」も有効だ。「学校に通えず、どんなことを感じたか」などを同級生で共有し合うと、つらい思いをしていたのは自分だけではないと知り、助けになることがある。

また、卒業式や入学式の縮小・延期で残念な思いをしている子どもには、今回の事態を、ポジティブ(肯定的)に捉え直す支援も重要だ。例えば、校庭で行われた卒業式もあったが、「忘れられない思い出になったね」と声を掛けることでも違う。

――休校による勉強の遅れが心配されている。

菅野 休校中の自主学習では、オンライン授業などで勉強できた子どもは限られているのではないか。十分勉強できた子どもと、学習環境に恵まれない子どもとの学力の差は開いたかもしれず、配慮が必要だ。

――学校現場は感染予防策にも苦慮している。

菅野 感染予防対策は十分に講じなければならないが、子どもには、そのルールを分かりやすく、シンプルに伝えることがポイントだ。教師の間でルールに相違があると、子どもは混乱する。ルールを守らない子どもも出てくるだろうが、注意するのは先生だけの役割とすれば、子ども同士のいじめの温床を防げる。

■(休校延長の地域は)虐待や育児放棄/丁寧に安全確認

――休校を延長する地域で注意すべきことは。

菅野 休校が長引くことで、学校側が把握しにくい、さまざまな問題が潜在的に広がる可能性がある。

例えば、家で暇を持て余した子どもが、SNS(会員制交流サイト)を巡るトラブルや、ネット犯罪などに巻き込まれるケースが増える恐れもある。最も心配なのは、虐待やネグレクトなどのリスクが高い家庭の子どもだ。十分に食事をさせてもらえない家庭では、給食が食べられないだけでも栄養が足りなくなり、非常に危険な状況だ。学校側が安全確認の電話をしたり、学級担任と社会福祉の専門知識を持つスクールソーシャルワーカーなどが一緒に家庭訪問したりすることも大切なのではないか。

――勉強などが、さらに遅れる心配もあるが。

菅野 学校側も授業計画や行事が二転三転し、現場が疲弊している。

学習が遅れることで、来年受験を控える子どもたちのストレスや不安は特に大きい。休校で思うように勉強ができなかったことで自分を責めたり、心身の調子を崩す子がいるかもしれない。学習支援だけでなく、そうした健康面へのケアも必要だろう。

■政府の緊急経済対策/スクールカウンセラー追加配置

文部科学省の調査(6日時点)によれば、全国の公立小中学校などのうち、62%が新学期から再開したか、再開する予定だ。ただし、7日の緊急事態宣言で指定された都府県では、再開は11%にとどまる。新型コロナウイルスの感染拡大の状況により、対応が変化する地域もあると見られる。

一方、同日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」では、学校再開に向けた支援として、マスク・消毒液の確保策や、子どもの心のケアを行うための教員の加配とスクールカウンセラーの追加配置などが盛り込まれている。休校延長や臨時休校の子どもたちの学びを止めないための支援としても、インターネット上で自主学習用の教材や動画を紹介した「子供の学び応援サイト」の充実などを実施する。

公明党は3月31日に政府へ行った緊急経済対策への提言の中で、子どもたちが安心して学べる衛生管理の環境整備や、学びの継続、心のケアを求めており、反映された形だ。

かんの・けい 1976年生まれ。帝京大学大学院博士課程単位取得満期退学。相模原市立青少年相談センター相談員、東京都公立学校スクールカウンセラーなどを経て、2015年に和光大学准教授、今年4月から現職。博士(心理学)、公認心理師、臨床心理士。著書に「児童養護施設の子どもたちの家族再統合プロセス」(明石書店)など。