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新型コロナ関連

新型コロナと世界経済/学習院大学教授 伊藤元重氏に聞く

2020年4月25日付

新型コロナウイルスの感染拡大で世界、日本の経済が揺らいでいる。国際通貨基金(IMF)は最新の世界経済成長率の見通しを公表し、世界の景気が総崩れになっていることを浮き彫りにした【別掲】。コロナ危機にどう立ち向かえばいいのか。収束後の展望は。学習院大学の伊藤元重教授に聞いた。

学習院大学教授 伊藤元重氏
学習院大学教授 伊藤元重氏

■(IMF予測)世界成長マイナス3%

新型コロナウイルスの感染拡大は、世界経済に深刻な危機をもたらそうとしている。IMFは「大恐慌以来、最悪の景気後退を経験する可能性が高い」とする見通しを14日に公表した。

基本シナリオでは、2020年の世界成長率はマイナス3・0%で、リーマン・ショック翌年の09年(マイナス0・1%)を大きく上回る落ち込みになると見込んだ。米国がマイナス5・9%、ユーロ圏もマイナス7・5%と先進国は総崩れ。日本もマイナス5・2%と、09年(マイナス5・4%)以来の水準に沈む。

IMFの予測は感染の封じ込めが成功し、今年後半には経済活動が正常化するとの想定に基づいており、世界の成長率は21年に5・8%まで持ち直すとした。収束に時間がかかり、感染が再び広がった最悪のシナリオの場合、20年の世界成長率はマイナス6%、21年もマイナス2%程度に悪化し、2年連続でマイナス成長に陥ると指摘している。

IMFの世界経済見通し
IMFの世界経済見通し

■(現状認識)戦後最大の危機に直面/収束期見えず景気低迷、長期化も

――現状の受け止めは。

伊藤元重教授 新型コロナウイルスとの戦いは、戦後最大の危機だ。よく比較される2008年のリーマン・ショックは、経済の根幹である金融システムに問題があって金融危機が広がったのに対して、今回はウイルス感染という経済以外の要因で危機が起こっており、全く性格が違う。

いわば、世界同時に“戦争”が起こっている状況で、ウイルスとの戦いに勝たないことには、経済活動は滞ったままだ。財政金融政策で景気を刺激し、回復を待つという方法では景気を浮揚させることは難しい。

――IMFは「大恐慌以来最悪の不況になる」との見通しを示した。

伊藤 難しいのは、新型コロナの収束がどこまで長引くか分からない点だ。パンデミック(世界的大流行)が数カ月で収まれば、経済が早く回復するシナリオがある一方で、感染が広がれば、景気低迷はIMFが示したより長期化することすらあり得る。ワクチンの開発も見通せず、今後の不確実性は非常に高い。

――各国の状況をどう見ているか。

伊藤 欧米の主要国は厳しい外出制限を敷き、経済活動を自粛した。米国は、できるだけ早く経済を動かそうとしているが、地域ごとに温度差がかなりある。欧州は感染の広がりを十分に抑え切れておらず、経済再開のかじを切ることに慎重だ。気がかりなのは、医療体制が脆弱な新興国や途上国に波及するリスクで、今後の動きを注視しなければならない。

中国は、主要な輸出先である日米欧の景気が低迷し、国内でも感染リスクに不安が残り、経済回復は緩やかになるだろう。リーマン後には、4兆元(当時の為替レートで約57兆円)の経済対策を実施し、世界経済をけん引したが、今回その役割は考えられない。

■(国内情勢)国民、企業守る施策重点/迅速な資金繰り支援が必要

――日本経済の状況は。

伊藤 東京五輪・パラリンピックの延期もあり、景気の減速は避けられない。この先を見通すのも極めて難しい状況だ。最大のポイントは、感染を早期に抑え込めるかどうかで、今後、感染爆発や医療崩壊が起きるような事態になれば、経済にもさらに深刻な打撃を与える。

――政府に求められる政策対応は。

伊藤 既に行われていることだが、まずは国民の生活を守ることだ。低所得層を中心とした所得補償や、企業による雇用維持を徹底して支援する必要がある。

さらに、企業が理不尽な形で破綻することを防がなければならない。とりわけ、倒産リスクが高まっている中小企業への休業補償や雇用支援に注力することだ。ウイルスとの戦いが終わった後で、経済のV字回復を実現するためには、企業がしっかりと生き残っていることが欠かせない。

もう一点、経済政策でカギとなるのが、金融システムの混乱を防ぐことだ。資金繰りに行き詰まる企業が急増する中、政府や日銀には大胆かつ迅速な資金提供が求められる。

――危機を克服するための道筋は。

伊藤 政府は緊急事態宣言を全国に広げる決断をしたが、欧米のような厳しい制限にまで踏み込んでおらず、海外からは日本の対応は非常に甘いとの指摘が少なくない。欧米では、不要な外出をした市民に罰金を科す例もあるようだ。

今、政府に問われているのは、足元の景気を重視するのか、それとも感染の広がりに短期に決着をつけ、経済回復の軌道に乗ることをめざすのかの選択だ。長引けば、経済政策の継続も困難になりかねない。苦渋な決断になるが、一時的にマイナスが出たとしても、より厳しい外出制限に踏み切ることを考えなければならないのではないか。

■(今後の展望)克服へ国際協調が不可欠/オンライン化 生産性向上の契機に

――今後の経済展望は。

伊藤 早期に感染が抑え込めさえすれば、経済が早く回復する芽はある。消費も投資も抑え込まれた反動があり、V字回復が期待できよう。懸念はやはり、パンデミックが長引くことだ。社会の不確実性が大きく高まる中で、企業や国民のマインドの改善に影響を残す可能性も少なくない。

――世界経済はどのような変化を迫られるか。

伊藤 感染が収まれば、グローバル経済は再び動き始めるだろう。ただ、パンデミック以前から関係が悪化していた米中が対立を深めていることは気がかりで、危機克服に求められる国際協力の強化にも影を落としている。

多くの企業は、サプライチェーン(部品供給網)が寸断するリスクに備え、各地に生産拠点を分散化する動きを強めよう。「世界への供給国」であった中国は、国内にもっと重点を置いた経済構造に変わるだろう。「コロナ危機」の前からではあるが、モノ・人・カネが国境を越えて大規模に動く「ハイパー・グローバル化」を見直す動きも広がっており、各国がどう対応していくかを注視したい。

――日本が国際社会で果たす役割は。また、この経験を今後にどう生かすべきか。

伊藤 コロナ危機がグローバルな金融危機につながらないよう、日本には途上国の安定化に向けた資金提供などが求められる。ワクチン開発でも国際協調は不可欠で、主要国が足並みをそろえられるよう調整役を果たし、難題を乗り越える体制を構築してほしい。

今回の危機対応をきっかけに、経済システムは大きく変わる可能性が高い。実際、テレワークやオンライン授業が広がり、働き方や学び方を変える流れができている。コロナ危機から、より生産性の高い社会変革につなげていくべきだ。

いとう・もとしげ 1951年生まれ。東京大学経済学部卒業、米ロチェスター大学大学院博士課程修了、同大学博士号取得。2016年から現職。東京大学名誉教授。専門は国際経済学。