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新型コロナ関連

新型コロナウイルスに打ち勝つには/新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長・尾身茂氏に聞く

2020年4月14日付

昨年12月に中国湖北省武漢市で確認された新型コロナウイルス感染症。全世界で感染者は10万人を超え、世界100カ国以上に広がっている。世界保健機関(WHO)は11日、同ウイルスについて「パンデミック(世界的流行)」との認識を示した。目に見えないウイルスとの闘いにどう打ち勝つか、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議で副座長を務める尾身茂・独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)理事長に聞いた。

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長・尾身茂氏
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長・尾身茂氏

■(特徴)クラスター感染が発生/80%軽症、高齢者に重篤化傾向

――これまで分かってきた新型コロナウイルス感染症の特徴は。

尾身茂JCHO理事長 特徴の一つは、2002~03年に32の国・地域へ拡大した重症急性呼吸器症候群(SARS)と比較すると致死率が低い点だ。SARSは症状が出てから人に感染するため、症状の出た人を隔離する対策が有効だった。一方、新型コロナウイルス感染症は、潜伏期間中の人や軽症・無症状の場合でも、人に感染させてしまう事例があるため、対策を打つのが極めて難しい。

感染集団が拡大するイメージ
感染集団が拡大するイメージ

季節性インフルエンザとの違いは、クラスター(集団)感染の発生だ【イラスト参照】。季節性インフルエンザの場合は、感染者1人が1~1.4人程度へそれぞれ感染を広げていくことが多い。しかし、新型コロナウイルスの感染は、その約80%は他の人に感染させていない。ただ、一部で特定の人から多くの人に感染が拡大したと疑われる事例が存在する。まだ理由は医学的に解明されていないが、その中で強い感染力を持った人が、多くの人が集まる狭い空間に行ったりすることで、他の集団に感染を拡大するというクラスター感染の連鎖が起きている。

――重症化する危険性は。

尾身 中国の報告(2月20日時点)によると、感染が確認された症状のある人の約80%が軽症で、13.8%が重症、6.1%が人工呼吸器を必要とするような重篤な症状となっている。さらに、広東省の報告(同)では、重症者125人のうち、軽快して退院した人が26.4%。回復しつつある人は46.6%に上り、重症者でも約半数が回復している。

日本国内では、症状が出た366人のうち、55人(15%)が既に軽快して退院している(3月6日時点)。高齢者や基礎疾患(高血圧や糖尿病など)がある人が感染すると、重篤化するリスクが高い傾向にある。

■(対策)早期発見で連鎖止めよ/リスクの高い場所、避けて行動

――北海道では2月28日に「緊急事態」が宣言された。

尾身 北海道のデータ分析などにより、軽症者は比較的、年齢層が若いことが明らかになった。症状が軽いため、感染リスクの高い場所にも行ってしまい、知らないうちに感染が広がる。“したたか”なウイルスのせいで、クラスターの発見が遅れてしまった。こうした状況から、緊急事態が宣言された。

今後の対策次第では、他地域でも北海道と同じことが起こる可能性もあるし、防ぐこともできる。人と人との接触を可能な限り控えるといった北海道での対策については、感染者数の変化など科学的な指標を用いて専門家会議で検証し、3月19日をめどに対策の効果を公表する予定だ。

――感染の拡大防止に向けた対策は。

尾身 具体的な戦略は、(1)クラスターの早期発見・早期対応(2)医療提供体制の充実・強化(3)市民の行動変容――の3本柱だ。

クラスターを次から次へと連鎖させないためには、濃厚接触者を追うクラスターサーベイランス(調査監視)が最も大事だ。この役割を担う保健所は現在、調査とともに帰国者・接触者相談センターとして一般からの電話相談にも対応しており、負担が大きく現場は疲弊している。人的、財政的、物的にサポートしていく必要がある。今後、感染者が増えた場合に備え、対応に当たる一般医療機関や診療所を早急に選定し、医療機器の準備など医療態勢の強化も欠かせない。

集団感染発生のリスク
集団感染発生のリスク

一方、これまで感染が確認された場所の共通点は、(1)換気の悪い密閉空間(2)手の届く距離に多くの人がいる(3)近距離での会話や発声がある――の条件が重なっていると考えられる【イラスト参照】。専門家会議としては、三つの条件がそろう場所になるべく行かないよう市民に協力を呼び掛けている。

感染症との闘いで、重要な戦力となるのは地域であり、現場だ。保健所や医療機関、市民のそれぞれの実践を政府が下から支え、オールジャパンで取り組むことが求められる。

■(国際協力)データ共有し治療薬開発/まん延防ぎ影響最小限に

――現時点で国内の状況をどう見るか。

尾身 感染者数は増加傾向にあるが、集団感染した人のリンク(感染源)が分かっているものが多い。しかし、一部で感染源が分からない事例があるため、今がまさに感染が拡大するか、収束できるかの瀬戸際だ。ただ、現時点では爆発的な拡大には進んでおらず、一定程度持ちこたえていると考えている。

これまでの経験から、日本人の健康や協力への意識の高さが、まん延の抑制に効いている可能性はある。先に示した三つの条件から、どういう状況だと危険かは各自で判断し、二次感染を防ぐための行動に協力していただきたい。同時に、どういうイベントなら開催しても良いかなど、私たち専門家のメッセージもなるべく分かりやすい発信に努めたい。

日本での感染拡大がいったん収束しても、ウイルスがゼロになることはない。世界的には、感染者が新たに確認された国や、急増している国があり、再流行してもおかしくない状況が続く。今後、国外からウイルスが持ち込まれる可能性も予想される。

――ウイルスの終息には国際協力が欠かせない。

尾身 日本は、チャーター機の帰国者や、クルーズ船の乗客・乗員の中で感染が疑われた人の調査を行った。この情報は治療薬の開発に役立つ。一方で、中国は人々の行動を大胆に制限し、湖北省以外の省で新しい感染者が減ってきている。こうした新型コロナウイルスに関するデータのシェアを、国際的に進めていくべきだ。

感染症との闘いは、国際社会が協力し、一緒になって取り組むべき課題だ。まん延を防ぐ取り組みを放棄すれば、国際社会・経済が打撃を受ける。社会・経済への影響を最小限に抑え、健康や命を守るための感染拡大防止に向けた努力の効果を最大限にするといった、バランスを取るような対策が求められる。この闘いは、誰かが一人で勝つことはない。負ける時はみんなで負け、勝つ時はみんなで勝つという闘いだからだ。

おみ・しげる 1949年生まれ。自治医科大学卒。同大学公衆衛生学教授を経て、同大学名誉教授。医学博士。90年からWHOに入り、西太平洋地域事務局長などを歴任し、現職。政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の副座長を務める。