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新型コロナ関連

(土曜特集)新型コロナ、国産ワクチン開発の現状と課題/大阪大学大学院 森下竜一寄付講座教授に聞く

2020年5月30日付
大阪大学大学院 森下竜一寄付講座教授
大阪大学大学院 森下竜一寄付講座教授

新型コロナウイルスの感染拡大を収束させるには、ワクチンの開発が欠かせない。各国の製薬会社や研究機関による開発競争が加速する中、日本では大阪大学と同大学発のベンチャー企業による「DNAワクチン」の研究が先行している。この取り組みを主導する同大学大学院・森下竜一寄付講座教授に話を聞いた。

感染の仕組み
感染の仕組み

■(ウイルスの遺伝子情報を活用)副作用の可能性少ない/開発~供給、短期間で

――「DNAワクチン」とは、どのようなものか。

森下竜一・大阪大学大学院寄付講座教授 インフルエンザなど、今使われているワクチンと比べて安全性が高い上、開発から供給までの期間が短く、大量生産できることが特徴だ。

ウイルスそのものを使って抗原を作る一般的なワクチンと異なり、DNAワクチンは、ウイルスの遺伝子情報のみを輪状のDNA(プラスミド)に合成する。ウイルス自体は一切使わないため副作用の可能性が低い。

人に投与すると体の免疫機能が異物と認識し、排除しようと抗体を形成する。ウイルスが侵入してきても、その抗体が働いて抑え込む仕組みになっている。つまり、従来のようにウイルスを使わなくても、人の体の中で作れるのがDNAワクチンだ。

――なぜ、そのようなメリットが生じるのか。

森下 ワクチンの多くは、いったん鶏の卵にウイルスを打って、その中で弱毒化したり不活化して製造する。この場合、実際に患者に打ち始めるまでに5~8カ月が必要となり、早期には対応できない。また、ワクチン用の卵をわざわざ作らねばならず供給量は限定されてしまう。

一方、DNAワクチンは、ウイルスの遺伝子情報さえ分かれば、開発から供給までに必要な期間は6~8週間で、大腸菌を使った大量生産もできる。新型コロナウイルスのようなパンデミック(世界的大流行)には、DNAワクチンの方が向いている。

もちろん、ワクチンの効果に関する正確な数字は、臨床試験(治験)を経て、実際に打たないと分からない。DNAワクチンの技術自体は、約20年ほど前からあり、SARS(重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザ、エボラ出血熱が流行した際も臨床試験までは進んでいたものの、医薬品として承認されるには至らなかった。

ワクチン開発の課題
ワクチン開発の課題

■7月にも臨床試験開始/年内の国内展開を検討

――開発の進ちょく状況は。

森下 3月下旬にワクチンの原型自体は完成しており、現在は動物実験で抗体の効果が確認できる段階まで進んだ。実験は順調に進み、想定した成果が出ている。山登りで例えるならば、7合目くらいまでは来たかなという手応えだ。

今後、動物での安全性の結果を確認できれば、医薬品として国から承認を得るために必要な、人への治験を7月に始められる。

治験は、常に感染の危険にさらされている医師らから始める。2週間以内に2回打ち、その1カ月後に感染予防効果を確かめる。まず大阪市の医療関係者数十人に打った後、9月には大阪府内の400~500人に広げたい。

安全性に問題がなければ、年内に東京都や北海道など感染者の多い地域への展開を検討する。流行の第2波、第3波が懸念されており、一日も早く全国に届けたい。

ただ、正直に言って、今の日本におけるワクチンの生産能力は高くない。もともと何億人、何千万人にワクチンを打つようなシステムは持っていないし、準備がなされてこなかったのが現実だ。今のままでは年内に作れるのは、最大でも100万人程度に限られてしまう。

■(諸外国の動向)米中などで100以上の計画/日本、一層の支援強化を

――海外の研究はどうか。

森下 世界では100以上のワクチン開発計画が進行中だが、やはり米国と中国が進んでいる。ただ、我々の研究がそんなに遅れているわけではない。

米国は、ワクチンの完成を待たずに製薬会社に資金を提供し、迅速かつ大量に生産できる体制を構築し始めている。なぜこのように動きが早いかというと、もともと軍がバイオテロ対策のためにウイルスの研究開発体制を敷いているからだ。毎年、国から潤沢な研究資金が出ている。

これに関し、ワクチンを先に開発した国が国際市場を独占するとの意見もあるが、私はそうは思わない。どの国も、その前に自国民に十分なワクチンを行き届けさせなければならず、とても他の国に輸出する余裕はない。

つまり、日本が早期に必要量のワクチンを確保するには、自前で製造するしかないということだ。海外での開発をただ待っているような悠長な場合ではない。

――今、国に求められることは。

森下 開発支援のための予算を大幅に拡充するとともに、ワクチン認可までのスピード感だ。

DNAワクチンは、大きなビール樽のような物の中で作る。当然その樽が多ければ、大量に生産でき、供給までの時間も早くなる。

ただ、繰り返しになるが、日本にはこうした設備が無い。私たちは自前で年内に20万人分は作れる体制は築いたものの、コストは現状自前だ。2020年度第1次補正予算と第2次補正予算案にも盛り込まれたが、引き続き一層の支援強化を要望する。

加えて、国は企業に対し、製造量の方針を明確に示してほしい。仮に企業がワクチンを大量に製造できても、在庫が余って赤字が生じる不安があれば、思い切って進めない。

一方、今後を見据えると、ワクチンが承認されるまでの時間がハードルになる。従来通りの考え方で治験の結果を待つと2~3年かかるので、第2波、第3波が来ると間に合わない。

■既存薬の転用進む治療薬

ワクチンとともに普及が急がれる新型コロナ治療薬については現状、別の治療目的で承認されている既存薬の転用が進む。7日には、抗ウイルス薬「レムデシビル」が国内初の新型コロナ薬として特例承認され、すでに医療機関への供給が始まっている。

抗インフルエンザ薬「アビガン」の月内の薬事承認は、「有効性を確認するための臨床研究を続ける必要がある」(加藤勝信厚生労働相)として見送られた。

このほか、ぜんそく患者向けの吸入ステロイド薬「オルベスコ」や急性すい炎の治療薬「フサン」、関節リウマチの治療薬「アクテムラ」などの転用、実用化に向けた研究が行われている。

なお、国内企業によるワクチン開発については、塩野義製薬も開発に乗り出し、田辺三菱製薬はカナダの子会社で取り組み、IDファーマやKMバイオロジクスも研究を進めている。

もりした・りゅういち 1962年生まれ。大阪大学医学部卒業後、米国スタンフォード大学循環器科研究員・客員講師などを経て現職。大学発のバイオベンチャーとして日本で初めて上場した「アンジェス株式会社」を創業した。近著に『新型コロナの正体 日本はワクチン戦争に勝てるか!?』(共著、ビジネス社)。