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新型コロナ関連

(土曜特集)新型コロナ「緊急事態」後を探る/昭和大学医学部・二木芳人客教授に聞く

2020年5月23日付

新型コロナウイルスの感染拡大を受けた政府の「緊急事態宣言」が、週明けの25日にも専門家の意見を聞いた上で、全て解除される可能性が出てきた。「宣言」以来の感染状況や、今後、発生が懸念される「第2波」への備えなどについて、昭和大学医学部の二木芳人客員教授に聞いた。

昭和大学医学部・二木芳人客教授
昭和大学医学部・二木芳人客教授

(感染状況)全国的に収束傾向示す

――「緊急事態宣言」後の感染状況の推移をどう見るか。

二木芳人客員教授 新規感染者数は減少し、1人の感染者が平均して感染させる人数を示す「実効再生産数」も各地で下がっている。感染は収束傾向と言っていいだろう【グラフ参照】。東京都の新規感染者は一進一退を続けているが、ピーク時のように1日に100人、200人と増えることはないと思う。

ただ、今表れている数字は、外出自粛が強く呼び掛けられた大型連休中に感染した人の数でもある。また、14日に39県で緊急事態が解除されてから最初の週末となった16、17日は、宣言が継続されている地域でも人出が増えたとの指摘もある。しばらくは注視が必要だ。

新型コロナウイルス国内の新規感染者の推移
新型コロナウイルス国内の新規感染者の推移

――政府の解除基準については。

1都3県の継続、生活圏一体で妥当な判断

二木 ①直近1週間の新規感染者数が人口10万人当たり0・5人程度②重症者の診療体制の確立③PCR検査の件数が一定以上――などとなっている。地域によって状況は異なり、全国一律の基準を設けることは難しいが、「人口10万人に対して0・5人」という具体的な目安を示した上で、医療提供体制と検査体制を含めて総合的に判断するというのは妥当ではないか。

21日には特定警戒都道府県のうち、京都、大阪、兵庫の3府県が、これらの基準をクリアしたので宣言が解除された。一方で首都圏の千葉、埼玉両県は基準を満たしたが、依然として予断を許さない東京や神奈川とは生活圏を含め密接な関係にある。この1都3県と北海道では解除を見送った。この点も妥当な判断だ。

今後は住民に近い各知事の役割が大事になる。国の基準とは異なるが、それぞれ休業要請や外出自粛に対する解除基準・ステップを示している。そろそろ経済へ対策の軸足を移していくということだろう。

(第2波は)秋以降、発生する可能性

――日本は諸外国とは異なる独特のウイルス対策を講じた。日本式の封じ込めは成功したのか。

二木 現在まで続く一連の流れを「第1波」とするならば、中国・武漢からのウイルスをターゲットにしていた2、3月ごろは非常にうまく封じ込めたと思う。ただその後、欧州からのウイルス流入をコントロールできず、現在に至る大きな感染者の山ができてしまった。それでも国内感染者数の累計は1万6000人超だ。ロックダウン(都市封鎖)や罰則付きの厳しい外出禁止令などを出さず、「要請」だけでここまでに抑えたという点は、他国から見たら驚くべき成果だろう。日本スタイルは大変に評価できる。ただし、国民の死に物狂いの奮闘と、緊急事態宣言のタイミングなどが奏功したもので、運が良かった面も否定できない。

だが、これで終わりではない。「第2波」にどう備えるかが今後の重要な課題になる。

インフルエンザとの重複流行も

――「第2波」は第1波よりも小さく抑えられるか。

二木 都内で採取された500人分の献血の検体を利用して新型コロナウイルスの抗体検査を実施したところ、陽性率は0・6%と報じられた。統計的には99・4%の人が免疫を持っていないということだ。第2波は第1波と同様の感染リスクがあると考えた方がいい。

その上で、第1波は2月から3月に来たが、次は秋から冬にかけてあるのではないか。冬は空気が乾燥し、ウイルスが活発化する。特に問題なのはインフルエンザの流行との重なりだ。毎年、インフルエンザは国内で1000万人以上が感染し、数千人が亡くなっている。新型コロナとの見分けも難しくなり、重複流行が起きることを非常に懸念している。

広域で医療・検査体制の充実急げ

――第2波にどう備えればいいか。

二木 ウイルス感染の有無を調べるPCR検査は、先日、ようやく1日当たり1万数千件に至ったが、まだまだ足りない。夏にかけて感染は一旦落ち着くだろうから、予算や人員を重点的に投入して1日10万件以上は実施できる検査体制を、秋までに整えることが大事だ。

医療提供体制についても最悪のシナリオを考えておくべきだ。例えば災害の場合は発生時が最悪で、そこから周辺からの援助もあって復旧に向かうが、感染症の流行は最初に小さく始まり、そこから全国、全世界を巻き込んで拡大していくからだ。思い切った体制整備を求めたい。

さらに物資の備蓄も必要だ。例えばマスクは、1日当たり1億枚の生産ラインを整えたのであれば、今から秋までに50億枚でも備蓄しておくとか、人工呼吸器などについても、仮に感染者が第1波の何倍になっても対応できるよう準備することが、危機管理の面からも重要になる。これらの対策は各都道府県が単独で講じるのではなく、ある程度、広域で取り組むべきだ。

(ワクチン開発)まず最前線の従事者に

――感染の有無を短時間で調べられる「抗原検査」のキットが保険適用になった。

二木 PCR検査よりも短時間で結果が分かるのが特長だ。抗原検査で陽性が出たら間違いないが、精度はPCR検査よりも劣る。やはり感染を疑う人にはPCR検査を実施し、結果をすぐに戻すことが大事だ。現状、抗原検査で陰性と出ても安心できない。早く精度を上げる必要がある。

――PCR検査を拡大させる“切り札”として、検体に唾液を用いる案もあるが。

二木 これは北海道大学病院で研究が進められている。鼻に綿棒を差し込んで粘液を採取する従来の方法は、検査する側にも感染リスクが大きい。

北大病院の担当者に話を聞いたところ、十数人の陽性者に対し鼻の粘液と唾液の両方でPCR検査を実施した結果、陽性反応が完璧に一致したそうだ。ただ、無症状の感染者の唾液でも検出できるかは今のところ分からないとのことだ。しかし、熱やせき、たんなどの症状がある人に対しては積極的に実施してもよいのではないか。

――ワクチン開発の見通しは。

二木 米国や日本国内などでは、RNAやDNAといった遺伝子物質によるワクチンの開発が始まっている。確かにこれらの遺伝子ワクチンは、従来の鶏卵を使用したワクチンよりも早く作ることができる。だが、このワクチンの効き目は弱いものだと思う。

現在のようにパンデミック(世界的流行)が起きている時には、医療従事者など最前線で闘う人の防護壁として第1弾のワクチンを使用することは重要だ。

広く普及には相当の時間必要

その後、インフルエンザワクチンのように一般の人に使う本格的なワクチンの開発が始まることになる。ワクチン開発も間違いなく二段階だ。ワクチンが完成し、皆さんに届くまでには相当の時間、2年以上は必要だろう。

緊急事態宣言が全国的に解除された後も、私たちのすぐ横にはウイルスがいる。第2波を頭の片隅に置きながら、決して油断しないことが肝要だ。

にき・よしひと 1949年、大阪府生まれ。川崎医科大学卒。78年、同大呼吸器内科に入局。倉敷第一病院呼吸器センター副センター長を経て、2006年11月、昭和大学医学部の臨床感染症学講座教授に就任。20年4月より現職。