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新型コロナ関連

(土曜特集)新型コロナ禍「介護崩壊」防げ/淑徳大学 結城康博教授に聞く

2020年5月16日付

新型コロナウイルス感染拡大の影響でデイサービス(通所介護)やショートステイ(短期入所)の事業所の休止が相次ぐなど、介護の現場が危機的な状況に直面している。利用者が必要なサービスを受けられず、心身の機能が低下する深刻な「介護崩壊」を防ぐために急がれる取り組みは何か。淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授に聞いた。

淑徳大学 結城康博教授
淑徳大学 結城康博教授

■デイサービスなど集団感染相次ぐ

介護分野では新型コロナウイルスを巡って、これまで全国各地のデイサービス施設や介護老人保健施設などで集団感染が相次ぎ発生している。死亡事例も少なくない。

4月24日には厚労省が、政府の緊急事態宣言が全国に拡大された後の介護事業所の休業状況を公表。同13~19日に通所系・短期入所系で858カ所が休業していることが判明した。このうち、感染拡大を懸念した自主的な休業は843カ所で全体の98%を占めた。訪問系も51カ所が休業していた。

事業所の休業状況
事業所の休業状況

■公明 チーム設置し緊急提言

こうした状況を踏まえ、公明党は同24日、介護分野の支援策などを検討するチームを設置。現場の関係者から聴いた声を基に、サービスの継続に向けた緊急提言を取りまとめ、今月7日に加藤勝信厚労相へ申し入れた。

提言では▽介護従事者らへの特別手当支給や感染した場合の損失などへの補償▽マスクや消毒液などの衛生物資、防護機材の確保▽感染の防ぎ方などのガイドライン(指針)整備と分かりやすい動画による現場への徹底――などを要望している。

■(現状と課題)人手不足、一層深刻に/事業所の休止や利用制限も

――介護現場の現状は。

結城康博教授 明確な治療法がなく、高齢者が亡くなるリスクが高い感染症がまん延する状況下で、介護者と利用者が接触せざるを得ない介護の現場では、感染を防ぎつつ、サービスを維持する方策を模索している。

その中で、特に顕著になっているのが人手不足だ。介護施設では、発熱などで職員を休ませたり、アルバイトの介護士が子どもの休校で出勤日を減らしたりする一方で、新しい人材が入ってこない。在宅介護では、デイサービスやショートステイが休止しても、その補塡ができない。訪問介護のヘルパーが足りず、新規の利用者が断られる実態もある。もともと人手不足のところに今回の問題が発生し、状況がより深刻になっている。

厚生労働省は、特例で人員配置基準を緩やかにできるとしているが、これは発熱のある職員を休ませた場合などに対応するものであり、その分、現場は手薄になる。

既に現場では「入浴が週2回から週1回に減った」「ナースコールが鳴っても、すぐに対応できない」「おむつ交換が2時間おきから3時間おきになる」などの事態が生じている。

感染しても入院先が見つからず、二次感染の恐れがある中、施設内で対応しているケースもある。

――厚労省の調査では、4月13~19日に休業した全国の通所系・短期入所系事業所が、全体の1・13%に当たる858カ所あった。

結城 まだ把握されていない事業所も多いと思う。私は現在、ケアマネジャーやヘルパーを対象にアンケートを行っているが、休んでいる事業所が結構ある。あるいは、休んでいなくても利用制限をしている。通常5~6時間のデイサービスを2~3時間にしたり、ヘルパーも週3回の訪問を週2回に減らしたりするなど、大変な状況にある事業所が少なくない。

■閉じこもりで重度化の恐れ

――この状態が続いた場合に懸念されることは。

結城 介護は「日常生活の維持」が最大の目標であり、そのためには、食事や入浴、体操などの介護サービスを受け続ける必要がある。しかし、新型コロナの影響でサービスの休止・利用制限が続き、高齢者も感染への不安からサービスの利用を控えて家に閉じこもれば、体が弱くなり、要介護度が重度化して寝たきりになる恐れがある。

また、施設に入所する認知症高齢者が、感染防止を理由に家族と面会できなくなれば、精神状態が不安定になる事態も考えられる。

当面の取り組みとして、感染者の増加による「医療崩壊」の防止が喫緊の課題であることは言うまでもないが、介護分野には660万人を超える要介護認定者(要支援1~要介護5)がいる。この人たちの重度化を防ぐためにも、施策の拡充を急いでほしい。

■(急務の対策)就職促す給付が必要/潜在する有資格者に支援を

――急がれる対応策は。

結城 介護人材の確保に向けて、平時とは異なる強力な雇用促進策を早急に講じるべきだ。例えば、資格はあっても介護の仕事に就いていない潜在介護士を対象に、非常勤で介護職に就いたら30万円、正規職員なら60万円の給付金を国から支給してはどうか。事業所におけるスタッフへの特別手当支給や衛生用品などの購入助成として、臨時の介護報酬引き上げも求めたい。

同居する家族が感染した場合の対応として、要支援から要介護2程度の高齢者をホテルに滞在させて、介護スタッフが食事の提供や簡単な身の回りの世話をする仕組みも検討してはどうか。在宅介護を担う家族の介護休暇の日数増や、一人で暮らす高齢者の閉じこもり・孤立の防止、安否確認などにも取り組むべきだ。

公明党が今月7日に厚労相へ提示した要望なども、しっかりと予算化して早期に実現してほしい。なお、要望のうち、介護従事者らへの特別手当については、ヘルパーの7割が非正規職員である事情を考慮し、支給によって年収130万円を超えても社会保険上の扶養から外れない特例措置を講じるべきだろう。

高齢者が気を付けたいポイント
高齢者が気を付けたいポイント

――高齢者自身の取り組みとして今、できることは。

結城 いかに普段の介護生活に近づけるかが大事だ。しばらくは現在の状況が続くと思われるが、デイサービスが休止していればヘルパーや家族に来てもらうなどして、できるだけ日頃のスタイルを維持してほしい。食生活に注意し、ラジオ体操や散歩などで体を動かすことも大切だ。

子どもが他の都道府県にいると、介護のために来てもらうことが今は難しいかもしれない。その場合は、電話での安否確認を行うなどの工夫を凝らしてほしい。

■柔軟なサービス提供の契機

――新型コロナ禍を機に、介護保険制度で改善するべき点があれば。

結城 介護保険外のサービスで介護保険のメニューの代わりとなるものには助成金を出すなど、柔軟に対応できる仕組みを構築するべきだ。例えば、デイサービスや訪問介護が休止した際、コンビニなどによる日用品や弁当などの宅配サービスを半額で受けられるようにすれば、当面の生活は維持できる。こうした取り組みも今後、重要になるのではないか。

――収束後を見据えて求められる取り組みは。

結城 たとえ新型コロナ禍が収束しても、介護現場の人材不足が解消されるわけではない。人手不足に陥らないような財政措置が必要だ。賃金の引き上げに加えて、人材育成の仕組みの体系化や、仕事の魅力を伝える方策などを考えていかなければならない。

ゆうき・やすひろ 1969年生まれ。淑徳大学卒、法政大学大学院修了。政治学博士。研究分野は社会保障論、社会福祉学。ケアマネジャーなどを経て現職。著書に『介護職がいなくなる』(岩波ブックレット)など。