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新型コロナ関連

(新型コロナと今後の社会 識者に聞く)/慶応義塾大学教授・井手英策氏

2020年8月21日付

■“無償化”で不安を解消/教育、医療、介護、障がい者福祉など暮らし支える基盤強く

慶応義塾大学教授・井手英策氏
慶応義塾大学教授・井手英策氏

 ――コロナ禍が突き付けた日本社会の問題は。

 井手英策・慶応義塾大学教授 コロナ禍は、日本の社会が抱える問題を「可視化」してくれた。特に、セーフティーネットと呼ばれる暮らしを支えるための基盤が、あまりにも“もろい”ことがよく分かった。

 例えば、日本には先進国では常識の低所得層向けの住宅手当がない。休校中の子どもの育児で仕事を休んだ親や、自粛要請に協力した人に対する所得保障の仕組みも持っていない。そうした社会保障がないから、突然、失業や収入減少といった危機に直面した人は慌ててしまう。

 結局、不安の原因は手元にお金がないためだとして、国民のパニックを抑えるには、現金を配る選択肢しか残されていなかった。この脆弱な社会をいかにつくり替えていくかという議論を始めるべきだ。

 ――どのように、つくり替えていくのか、その方向性は。

 井手 今回の一律10万円給付は、所得制限を設けず中間層や富裕層も含めて全ての人に配ったから、国民に支持された。消費税の軽減税率と同様に全ての人に利益があるからだ。しかし、例えば、大学に通う子どもの学費や、大きなけがをした場合の医療費は、1回の10万円給付だけでは足りない。だから、誰もが必要とする、もしくは必要になる可能性がある教育、医療、介護、障がい者福祉といった「ベーシック・サービス」を税財源で無償提供することを提案してきた。

 予算規模で比較すると、一律10万円給付は約13兆円、与党の尽力で始まった幼児教育・保育の無償化の今年度予算は約9000億円だ。13兆円は、幼保無償化を15年近く続けられるほど莫大な金額だ。

 あるいは、消費税を5%減税した場合はどうか。総務省の家計調査によると、収入が最も低い20%の世帯の消費額は年間約160万円で、減税効果は約8万円。収入が最も高い20%の世帯の消費額は同約470万円で、減税効果は約24万円となり、富裕層が得をする。

 現金給付や減税のような「お金」で返す方法よりも、生存と生活を保障するサービスを無償化に近づけた方が、全ての人が将来不安から解放され、安心して暮らせる社会をつくれる。

■「連帯」構築へ新たな発想

 ――ベーシック・サービスを無償化に近づけるために必要な考え方は。

 井手 当初は、貧しい人に30万円給付する案だったが、一律10万円給付は国民に歓迎された。この事実に、貧しい人に対する思いやりより、自分の生存に必死になっている人間の姿が浮かぶ。結婚を諦め、子どもや持ち家、いろんなことを我慢し、歯を食いしばって生きている人が大勢いる。人間は、自分の生活が安全・安心にならない限り、他者を思いやることは難しい。だからこそ、重要なのは全ての人の生活防衛だ。

 経済は低成長を続け、少子高齢化が進む中、これから長い停滞の時代に入っていく。コロナ禍はその一部にしか過ぎない。本当の危機はこれからやってくる。歴史を振り返れば、危機の時代では、人々は新しい連帯の仕組みを作り、支え合い、満たし合って生きてきた。これまでは、経済を成長させ、自分の力で稼ぎ、自己責任で生きていけたが、危機の時代は無理だ。社会全体が連帯する新たな仕組みが求められている。

 一部の人、例えば貧しい人だけを助けようとすれば、中間層や富裕層は、これをねたむ。危機の時代には、大勢の人が困っている。心の底から「困っている人のために」と思うのであれば「皆のために」と言うべきだ。公明党は、右でも左でもない新たな発想で、連帯の社会づくりをリードしていくべきだ。

 いで・えいさく 1972年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。日本銀行金融研究所勤務などを経て現職。専門は財政社会学。著書に『欲望の経済を終わらせる』など。