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新型コロナ関連

(新型コロナ禍)個人データ利用の課題/慶応義塾大学法科大学院・山本龍彦教授に聞く

2020年5月19日付

 新型コロナウイルス対策に関連して、スマートフォン(スマホ)などの利用を通じて収集される行動履歴や位置情報といった個人データの利活用が急速に進んでいる。公衆衛生を維持していく上で効果が期待される一方、プライバシー保護の面で懸念する声もある。取り組みの意義や課題について、慶応義塾大学法科大学院の山本龍彦教授に聞いた。

慶応義塾大学法科大学院・山本龍彦教授
慶応義塾大学法科大学院・山本龍彦教授

■監視社会をどう避けるか

 ――新型コロナ対策を機に個人データの利活用が進んでいる状況をどう見るか。

 山本龍彦・慶応義塾大学教授 プラットフォームと呼ばれる大手IT企業が持つデータは、国民の生活実態をリアルに反映している。それは、公衆衛生に国が手だてを講じる上で非常に有効であり、国とプラットフォームが協力すること自体はポジティブ(肯定的)に捉えるべきだ。

 ただ、注意しなければならないのは、両者の関係性である。両者が過度に接近し過ぎるとデータが常態的に共有される懸念が生まれ、中国に代表される監視社会との指摘も出かねない。

 また、プラットフォームに対する国家の統治が効かなくなる恐れもある。

 ――両者の関係性に求められる視点は。

 山本 関係性を国民に見えやすくして緊張感を持たせることだ。日本では今回、両者が「協定」という形を取り、ヤフーは協定の内容を公表した。しかし、今後も他の事業者が同様の対応を取る保証はない。国家とプラットフォームとのデータ連携のあり方など、付き合い方に原則を作り、ルール化しておくべきだ。

 参考になるのが欧州連合(EU)だ。政府とプラットフォームの間におけるデータ連携のあり方について、検討が相当進んでいる。具体的には透明性確保の重要性を掲げ、目的を明確にした上で必要な範囲に限ってデータを利活用するという、目的に比例したデータ連携を定めている。

 国家の物理的権力とプラットフォームのデータ的権力との均衡のあり方や、あるべき関係性は今後も問われるだろう。この点で、両者の関係性を民主的にチェックする体制の整備が不可欠であり、国会での議論が求められる。長期的には何らかの法整備も検討する必要があるのではないか。

■民主的統制の仕組み検討を/目的の明確化必要

 ――個人データの利活用にはプライバシー保護への課題がつきまとうのではないか。

 山本 新型コロナとの戦いが長期化することは避けられれず、経済活動を再開させながら日常をどう取り戻していくかが問われる。その中で、行動履歴の分析といったデータを活用した対策は有効だ。

 確かに、データの利活用を誤るとプライバシーや人権を脅かす。一方で、データを適切に扱えば、むしろプライバシーを守れる側面もある。自治体によって情報開示の方法はまちまちだ。個人を特定できる形で感染者情報を不特定多数に公表すると、かえってプライバシーの侵害につながり、差別を増大させかねない。データ利活用とプライバシー保護は常に対立するわけではなく、二項対立のような極端な議論は適切な運用を妨げかねない。大事なことは、プライバシーを保護しながらデータ利活用のメリットを最大化させることだ。

 ――メリットを高めるためにどのような配慮が必要か。

 山本 データ利活用の目的を特定・明確化し、それを超えるものは厳しく制限する姿勢だ。例えば、「公衆衛生のため」といったあいまいな言葉を使用すると、なし崩し的な利用につながりかねない。

 従って、目的を具体的に設定し、データの保存期間を厳格に決めることが必要だ。第三者のチェックも欠かせない。データの利活用をアクセルに例えるなら、目的設定や時限性でブレーキをかけ、バランスを取ることが重要だ。安易な例外を認めないために、国会に監督機関を設けるなど民主的な統制の仕組みをつくることも望ましい。

 ――政府が、新型コロナウイルス感染者との濃厚接触の可能性をスマホで通知する「接触確認アプリ」の開発を進めている。

 山本 厳格なセキュリティーに基づき運用される見通しだ。他方、自発的な同意ベースで利用されるため、利用者が広がるか懸念される。事実、シンガポールも同様に進めたが、利用者数が増えていない。

 成功の鍵は、政府が分かりやすい説明を行い、国民が信頼して使用できる環境を醸成することに尽きる。プラットフォームを活用した周知も検討に値しよう。陽性者への差別が横行すれば、自発的な同意や申告に頼る仕組みは、うまくいかない。私たちの社会のあり方も同時に問われている。

■感染防止へ企業と協力し移動状況を把握

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、政府は3月末、大手IT企業や携帯電話会社などに対し、地域における人の移動状況の把握やクラスター(感染者集団)の早期発見に役立つ統計データの提供を要請。現在、ヤフーやLINEなどが政府と協定を締結している。これを受けLINEは、対話アプリを通じて集めた健康調査の結果を厚生労働省に提供している。

 こうした動きは他の民間事業者にも広がりつつある。KDDIは、個別に同意を得たスマホ利用者の位置情報と性別や年齢層を分析できるツールを全国の自治体に無償提供する取り組みを始めている。

人の移動状況を色の濃さで示す分析データツール(KDDI提供)
人の移動状況を色の濃さで示す分析データツール(KDDI提供)

 やまもと・たつひこ 1976年生まれ。2005年、慶応義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。博士(法学)。14年より現職。著書に「AIと憲法」など。