×

新型コロナ関連

(新型コロナ禍)学ぶ機会どう確保するか/オンライン授業の現状と課題/東北大学大学院・堀田龍也教授に聞く

2020年5月27日付

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除され、学校再開の動きが各地で進んでいる。ただ、全面再開までは時間がかかりそうで、休校を続ける学校も含めて児童・生徒の学習機会の確保は引き続き大きな課題だ。こうした中、教育現場で広がりを見せるオンライン授業の現状と課題について、政府の中央教育審議会委員を務め、情報通信技術(ICT)を活用した教育に詳しい東北大学大学院の堀田龍也教授に聞いた。

東北大学大学院・堀田龍也教授
東北大学大学院・堀田龍也教授

■極めて低い同時双方向の実施率

 ――休校が3カ月続いている。教育現場への影響は。

 堀田龍也・東北大学大学院教授 子ども、保護者、教師といった学校関係者はもちろん、社会全体としても教育に対して不安を抱いた3カ月だった。当初、多くの学校では4月から再開することを見越し、プリントを作って、子どもたちに渡して自主学習を行っていた。

 ところが4月になって緊急事態宣言が出て、状況が一変した。例えば、学校側は入学式や始業式がいつできるのか、子どもたちは新しい学校、クラスにはなったけど担任がどんな人か分からない。精神的な不安が大きかったと思う。その様子をすぐそばで見ている保護者には、プリントが配布されたものの、子どもたちはしばらく頑張ったとしても、子どもが頑張り続けることは難しいという心配が出てきた。

 教師も、子どもにプリントを配ればしっかり勉強するとは思っていなかった。しかし、それしか学力を確保する方法がなかった学校が大半だった。4月の段階で自治体によってはオンライン授業を始めたが、そういう所は、既に子どもたちに1人1台のパソコンが整備されていて、すぐに対応できた。

 ――オンライン授業の実施状況をどうみるか。

 堀田 オンラインで、しかも同時双方向で授業を実施した自治体は4月16日の文部科学省の調査では全国で5%だった。大変に低い実施率だった【表参照】。

 こうした状況を見て文科省は、4月21日にICTを活用した学習が有効だとし、家庭の端末やネット環境を借りてでも実施せよと全国に通知した。環境が整っていない家庭には学校にあるICT機器を貸し出すとか、パソコン室を開放するなどの形でやった所もあった。

 残念ながら、5月に入ってもオンラインによる学習を実施しない自治体が散見され、地域によって取り組みに差が出てきている。

公立学校における休校中の学習方法
公立学校における休校中の学習方法

■学校再開後もICT化進めよ

 ――なぜ学校のICT化は進まないのか。

 堀田 まず、教師がICTの操作ができないことが原因ではないと指摘しておきたい。今回の長期休校でも多くの教師が不慣れなりに授業動画を作ったり、オンラインで課題を配布したり、精いっぱいの努力をしていた。大半の教師は子どものためだったら何だってやる心構えだ。

 課題は、端末が整備されてなかったり、ネット環境が不十分なことだ。これは設置者のこれまでの姿勢の問題だ。公立学校なら自治体になる。端末やネット環境を整備する予算は、国から毎年、地方交付税として自治体に交付され、1校当たり約500万円程度になる。ただ、地方交付税の使い道は自治体の裁量であり、一部でICT化に熱心な地域もあるが、山積する教育課題において、多くの自治体では優先順位が低かった。

 学校のICT化が進まない現状を踏まえ、国は昨年12月に「GIGAスクール構想」を立ち上げ、今年度から国が直接、予算を投入して学校のICT化に乗り出す予定だった。先の国会で成立した補正予算でさらに前倒しする費用が盛り込まれたが、もうあと一歩遅かったと悔やまれる。

 ――オンライン授業は地域格差やICT環境による格差が生まれるとの指摘もある。

 堀田 もともと地域格差は存在していた。今回のコロナの問題で自治体の取り組みの格差が露呈した。この事態を機会に格差が縮むことを期待している。また、全体で1~2割いるICT環境が整っていない家庭へのフォローも大事だ。端末やWi―Fi機器の貸し出しなどでしっかり対応してもらいたい。

 学びの機会の格差については、オンライン授業を始めれば、段々縮まると思うが、いきなり成功しない。だから少しでも早く始めないといけない。

 それに、学校が再開されても、しばらくは午前中だけとか、分散登校になるだろう。感染第2波が来て、再び学校に通えなくなるかもしれないし、災害で休校になる可能性だってある。

 今のうちから、プリントでやること、オンラインでやることをトータルで組んだ学習カリキュラムをつくる必要がある。これは地域ごとに状況が違うので、それぞれの取り組みでなくてはらない。学校現場と教育委員会との連携による仕事だ。ここで重要なのは、学校ごとの判断に任せてもらいたいということだ。現場の裁量に委ねることで柔軟に対応できる。

■情報の収集力や判断力が重要に

 ――コロナが収束した後の学びはどう変わるか。

 堀田 昨年12月に経済協力開発機構(OECD)が発表した調査によると、日本の子どもが学習でICTを使う時間は加盟国中で最下位だった。

 一方で、SNS(会員制交流サイト)やゲームをする時間はトップだった。今の子どもたちはデジタルネイティブ世代だが、遊びでしか使っていない。なぜなら学校が情報化していないからだ。学校で体系的な指導をしていないから、できる子はできるし、できない子はできないままだ。その結果、SNSなどにおいて情報モラル不足が問題になっている。

 今、国際社会では、自分でICTを使って情報を収集し、自分なりの考えを明確にし、それを誰かに伝えて、ディスカッションするような能力が重要だとして教育を進めている。これは点数こそが学力といった、これまでとは全く違う発想だ。

 時代は既に超高速の情報社会に入っている。ICT化が進むことで、自分で判断して展開する力や、学ぶ意欲とか、学び直す力を付けることが大切になる。

 ――政治に期待することは。

 堀田 行政から見れば、学校のICT化は数千万円の予算がかかる。ほかにも教育施策で必要な予算は山ほどある。行政はバランスを取ることに流れやすく、予算を公平に配分するものだ。ここで重要になるのが政治の力になる。時代や社会に合うよう予算に強弱を付けることになる。

 そういった意味では、子どもの未来にどれだけ投資するかは政治に掛かっている。踏み切れない行政を後押ししてもらいたい。政党を挙げて、未来志向の政治であってほしい。公明党には教育に熱心な議員が多い。これまでもICT化で議会で積極的に発言しているので期待したい。

 ほりた・たつや 1964年生まれ。東京学芸大学卒、東京工業大学博士後期課程修了。専門は教育工学。東京都の公立小学校の教員を経て、玉川大学教授などを歴任。2014年から現職。19年から中央教育審議会委員。