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新型コロナ関連

(新型コロナ)「後遺症」リスク解明へ/日本呼吸器学会 横山彰仁理事長に聞く

2020年8月13日付
横山彰仁理事長
横山彰仁理事長

■実態調査、今月にも開始

新型コロナウイルスに感染した人の中には、療養を経たPCR検査では陰性だったが、退院後に息苦しさなどの症状を訴える人がいる。海外の研究でも、こうした「後遺症」とみられる報告が相次いだことから、厚生労働省は8月中にも実態把握のための研究に乗り出す予定で、研究事業に応じる日本呼吸器学会などと調整を続けている。同学会の横山彰仁理事長に調査の狙い、課題などを聞いた。

――新型コロナの「後遺症」とは。

横山彰仁理事長 普通の感染症は治れば、それほど後遺症に悩まされることは少ない。しかし、新型コロナの場合、後遺症が残るケースが多々ある。

新型コロナの治療に対応している医師からは、退院後、軽度の頭痛や睡眠障害、発熱が続く人もいると聞く。さらに、息苦しさで酸素吸入が常時必要になってしまったり、腎不全に陥ったりする重篤な症状が残る人もいるようだ。

退院後の症状例
退院後の症状例

――海外では先行研究の報告が出ているようだが。

横山 7月上旬に米医師会雑誌で発表されたイタリアの病院での調査によれば、新型コロナから回復し退院した143人の患者のうち、退院からおよそ1カ月時点で約9割の人に何らかの症状があった。主な症状(複数回答)は、全身の倦怠感(53%)、息切れなどの呼吸困難(43%)、関節痛(27%)、胸の痛み(22%)だった。その他、においを感じられない嗅覚障害などの症状もある【図参照】。

一方、中国の病院の調査では、退院後に患者の約半数で何らかの呼吸機能の異常があった。同様の調査報告はフランスの研究者からも行われている。いずれの調査も人工呼吸器を使った最重症レベルの患者を除外したものだが、かなりの頻度で肺の機能に障害が残ることがうかがえる。

日本では、どういった後遺症が、どの程度起きているのか、データがなく把握できていない。実態や要因、そのリスクを明らかにして、治療や予防につなげる必要がある。

――日本呼吸器学会が担当する調査の概要は。

横山 全国100施設程度の医療機関に協力を募り、入院中に酸素投与を受けた中等症以上の元患者にアンケートや肺機能検査、胸部のコンピューター断層撮影(CT)などを実施する予定だ。8月下旬以降、各地の医療機関で着手できるよう準備を進めている。

■免疫暴走で肺損傷し「線維化」の可能性

――後遺症の要因として推測されるものは。

横山 複合的な要因もあると思われるが、大きく分けて二つある。一つ目は、ウイルス感染による「サイトカインストーム(免疫の暴走)」だ。過剰な免疫反応で肺の血管などが傷つくことで、重い呼吸不全である急性呼吸促迫症候群(ARDS)に陥る。そうなった肺は回復しても元通りにならず、硬くなる「線維化」が起きやすい。これが息切れなどの後遺症につながっているのではないか。

■精神的ストレスも要因の一つに

二つ目は、感染により病院や施設に長期間隔離されたことによる環境的な要因だ。こうした精神的ストレスは、拘禁反応や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつなどを招きやすい。ベッドに長時間寝ていたことによる身体的な影響があるかもしれない。

――調査に当たっての課題は。

横山 退院後に自覚症状がなかったり、症状があっても軽度であまり問題視しない人も多いと思われる。こうした人たちに、わざわざ医療機関へ出向いてもらい調査に応じてもらうのは容易ではない。しかし、後遺症を明確に訴える人ばかりを調査するとデータが偏る。正確な実態がつかめなくなる恐れがある。

協力してもらえる元患者を、いかに幅広く確保するかが重要だ。後遺症のリスク解明と予防のため、退院した人には、ぜひ協力してほしい。

■(厚労省)軽症者含め2000人を研究方針

新型コロナで退院後も呼吸機能の低下が続く人がいることを踏まえ、厚労省は、実態把握に向けた研究を開始する方針だ。

具体的には、中等症~重症で入院中、酸素投与が必要だった成人の患者1000人を対象に、退院から一定期間がたった時点で肺機能検査などを実施する。日本呼吸器学会は、これらの研究を担うことを想定している。

また、軽症~中等症の容体から回復した患者1000人に対しては、どのような自覚症状があるかアンケートを実施。状況に応じて血液を採取して分析する研究を予定している。

同省は、計2000人の調査を通じ、症状が残る人に共通する要因などを調べ、治療法の改善につなげたい考えだ。

よこやま・あきひと 1983年、富山医科薬科大学医学部卒。高知大学教授。米国シカゴ大学研究員、広島大学助教授などを歴任。