×

新型コロナ関連

(新型コロナ)抗体検査の狙いは/栁原克紀・長崎大学大学院教授に聞く

2020年6月2日付

 新型コロナウイルスの感染第2波に備えた検査体制の強化が喫緊の課題となる中、PCR検査や抗原検査に加え、注目されているのが抗体検査だ。感染歴の有無を調べ、国内の感染の広がりを知るために有効とされる。すでに民間レベルでも実施され、厚生労働省は今月から、初となる1万人の大規模検査を開始した。抗体検査の狙いや課題などについて栁原克紀・長崎大学大学院教授に聞いた。

栁原克紀・長崎大学大学院教授
栁原克紀・長崎大学大学院教授

■感染状況の把握に有効/体内の免疫反応を診断/検体採取時のリスク低い

 ――抗体検査はPCR検査や抗原検査とどう違うのか。

 栁原教授 過去の感染歴を知ることができるのが抗体検査だ。抗体とは、病原体などの異物に反応して体内でつくられるタンパク質で免疫グロブリンと呼ばれる。数種類あるうち、新型コロナでは発症から2~3週間程度で、ほとんどの人がIgM抗体かIgG抗体が陽性になる。

 検体には血液を使うので、検査過程で感染リスクは低い。陽性か陰性かをみる定性検査キットなら15~20分で結果が出るが、キットによって性能にばらつきがある。感染後に抗体ができるには一定期間が必要で、感染初期は陽性にならないという問題もある。

 一方、PCR検査はウイルスの遺伝子を検出し、感度が高いのが特徴だ。しかし、専用機器で遺伝子を増幅して調べるため、3~6時間を要し、専門人材が検査するなど手間やコストがかかる。

 抗原検査は、ウイルスの特徴的なタンパク質をみる。5月13日に薬事承認された検査キットの場合は約30分で結果が分かるが、PCRより感度は劣る。二つの検査は、現在の感染の有無を調べるものだ。検体は鼻の奥の粘液などを用いるため、検体の採取時などで感染リスクがある。

抗体検査
抗体検査

■「再流行」対策の判断材料に

 ――政府の大規模調査をどう見るか。

 栁原 サンプルが少な過ぎると評価しにくいが、1万人という規模なら妥当で時宜にかなっている。今は感染が収束しつつあり、国内の流行が始まって5月までを第1波とするならば、感染した人のほとんどが治癒して抗体ができているはずだ。

 今回は定性検査ではなく、抗体そのものの量である抗体価をみる定量検査だ。検査結果により、感染実態の把握はもちろん、国民の多数が感染して体内に抗体を持つことで拡大を抑制する「集団免疫」の進行具合や、感染による死亡率が分かってくる。病態の解明の基礎データにもなる。

 国内で確認されている感染者数は1万6000人超だが、感染状況が分かれば、より正確な死亡率を推計できるので、対策を練る指標になる。

 ――具体的にどのような対策に生かせるのか。

 栁原 今後、再流行が起きた場合に、どの業種で休業要請をするかの判断材料になり得る。今回は、全国的な休業要請や外出自粛で社会経済活動は大打撃を受けたが、仮に死亡率が低いということなら、再流行時でも制限を緩めながら経済活動は続けようなどという判断もできる。

 とはいえ、まだ未知な部分も多く、抗体を持っていても再感染しないとは限らないし、できた抗体がいつまで持続するのか、再感染を防ぐにはどれくらいの抗体があればいいのかも分かっていない。引き続き研究が必要であることを認識しておくべきだろう。

新型コロナウイルスの感染を調べる検査法
新型コロナウイルスの感染を調べる検査法

■(今月スタート)3都府県で1万件実施

 新型コロナウイルスは、感染しても8割は軽症や無症状であるため、実際の感染者数は判明しているよりも相当数多いと考えられる。政府は、抗体検査で市中感染の割合を推計することで、「今後の感染拡大防止策の検討に活用していきたい」(加藤勝信厚労相)としている。

 政府の1万人規模の検査では、一定規模の都市がある都道府県のうち、10万人当たりの感染者数が多い東京、大阪と少ない宮城の3都府県で、それぞれ3000人余りを検査する。

 20歳以上の男女を年齢別に無作為に抽出し、同意を得た上で実施する。検査に使う血液採取は東京都と宮城県で1日から始まり、大阪府は3日からの予定だ。
 
 
 やなぎはら・かつのり 長崎県生まれ。長崎大学医学部卒。長崎大学大学院医歯薬学総合研究科准教授などを経て、2013年より現職。長崎大学病院検査部部長。日本感染症学会専門医。日本臨床検査医学会「新型コロナウイルスに関するアドホック委員会」委員長。