×

新型コロナ関連

(新型コロナ)日本の対策を世界が評価/WHOシニアアドバイザー・進藤奈邦子氏に聞く

2020年6月8日付

 新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が解除され、日本は経済社会活動と感染抑制を両立させる段階に入った。これまでの日本の対策をどう評価すべきか。今後、必要な視点は何か。世界保健機関(WHO)で、新型コロナに関する政策や指針の策定に携わっている進藤奈邦子シニアアドバイザーに聞いた。

インタビューに答えるWHOシニアアドバイザーの進藤奈邦子氏(共同)
インタビューに答えるWHOシニアアドバイザーの進藤奈邦子氏(共同)

■科学的根拠に基づき奏功

 ――これまでの日本の対策をどう評価するか。

 進藤奈邦子・WHOシニアアドバイザー 感染症の専門家の見解を重視した日本の(感染者の集団を発見して拡大を防ぐ)クラスター対策が奏功し、他の先進国と比較しても圧倒的に死者が少ない【表参照】。各国が外出を強制的に制限する中、日本が、可能な限り普通の生活を維持しながら感染拡大を抑え込んだことは、世界で奇跡的と見られている。

 政府の緊急事態宣言は国民全体に警戒心を喚起し、感染機会を激減させたため全国的に感染拡大が収束傾向に向かった。国民の公衆衛生に対する高い意識も大きな支えとなった。

 ――一部メディアからは疑問視する指摘も出ているが。

 進藤 多くの国のメディアから「日本はなぜうまくいったのか」といった取材を受けているので、そうした指摘が出ること自体、理解に苦しむ。ちなみに、G8(主要8カ国)で死者が1000人を切っているのは日本だけで、7位のロシアですら死者は5000人を超えている。

 日本の徹底したクラスター対策は確固たる疫学的観測に基づいている。例えば、人がすれ違ったり電車で乗り合わせたりしただけでは、ほとんど感染しない。この程度でうつるなら、世界に類を見ない人口密度と人の移動頻度・距離が大きい日本ではもっと早い段階で感染爆発が起こっていたに違いない。

 感染制御に失敗している国の共通点は、科学的な根拠に基づかず、政治的な思惑で判断していることだ。「日本はうまくいっていない」と指摘するなら、その根拠を問いたい。緊急事態宣言の発出が遅いと感じたのかもしれないが、他国より先手が打てている。国民に対し日本の成功がうまく伝達できていないのかもしれない。

主な国の新型コロナウイルス感染状況
主な国の新型コロナウイルス感染状況

■有症者優先のPCR検査/医療守り死者数抑えた

 ――PCR検査が少ないことにも批判が集まった。

 進藤 あくまで、検査は感染制御戦略におけるツールの一つにすぎず、検査結果を対策にどう生かすかが大事。検査を増やせば感染制御できるのではない。仮に陰性でも、実は潜伏期で数日後に発症する可能性すらある。陰性結果に安堵して行動するか、検査は受けていなくとも、調子が悪い時に行動を自粛することのどちらが感染制御に必要な対応か。結果は明らかである。

 日本は最重要目標を、死者数を最低限にすることと定め、有症者を優先して検査し、一刻も早くクラスターを見つけて接触者調査を行った。患者数の爆発的増加はクラスター対策で防ぐことができ、重症者が感染者の数に応じて一定の割合で現れるのでそれも防げる。このように、日本は戦略的に検査を展開したからこそ、医療システムを守り重症者に十分な治療を施して死亡者を最小限に抑えることができた。

■感染症動向調査、今後重要に

 ――今後の課題は何か。

 進藤 緊急事態宣言が解除され、社会経済活動が再開されたとはいえ、感染再拡大に備えて個人個人が責任を持って行動できるよう、政府や自治体、マスコミがどのように情報を発信すべきか、コミュニケーションに一層の丁寧さが求められる。

 感染拡大の最中に頻繁に見られたのが、専門家会議が出した対策について、感染爆発やパンデミック(世界的大流行)の専門でない人が、テレビ番組などで自由に見解を述べていたことだ。個人の衛生管理レベルの話なら意義がある。しかし、対策の根本的な部分に対して別の見解を呈するのは、国民に混乱を与えかねない。情報を受け取る国民自身も注意が必要だ。

 ――新型コロナとの闘いは長期化が避けられないが、ウイルスとの共存社会を築く上で必要な視点は。

 進藤 最も大事なことは、サーベイランス(感染症動向調査)への取り組みだ。

 風邪などインフルエンザ様疾患のサーベイランスの体制は、既に日本にある。感染症法に基づき、大人の患者を約2000、子どもの患者を約3000調べる定点が設けられ、一定の割合で呼吸器のサンプルから病原体別のトレンド(傾向)を調べている。この枠組みに新型コロナを加えれば効果的だ。地域ごとの傾向も分かるので、きめ細かい対策が打ちやすくなるだろう。

 その上で、不要不急の外出、3密を避ける行動、手洗いといった衛生行動の徹底に尽きる。どこまでも個人の自覚に頼るところが大きい。

 シンガポールや中国といったアジア諸国では、これまで多くの感染症の脅威にさらされており、近所や会社、学校といったコミュニティーが協力して乗り越えてきた歴史がある。一方、初の経験となる日本は、コミュニティーの希薄さが指摘される。感染時もお互いが理解し支えられる社会への成熟が今こそ必要だ。

 しんどう・なほこ 東京慈恵会医科大学卒。医学博士。専門は内科、感染症学。国立感染症研究所主任研究官などを経て、2018年から現職。