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新型コロナ関連

(新型コロナ 移動自粛が全面解除)必要な「第2波」への備え/長崎大学学長 河野茂氏に聞く

2020年6月22日付

新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の解除から約1カ月。政府は19日、都道府県境をまたぐ移動自粛要請を全国で解除した。社会経済活動が徐々に再開されていくが、同時に感染第2波への備えが極めて重要になる。呼吸器感染症が専門である長崎大学の河野茂学長に、課題や対策のあり方を聞いた。

 

長崎大学学長 河野茂氏
長崎大学学長 河野茂氏

■唾液によるPCR検査の体制強化がポイントに

――社会経済活動が再開する中で、感染第2波への備えは大丈夫か。

河野茂・長崎大学学長 世界では、なお猛威を振るう中、日本の感染者数や死亡者数が他国に比べて相当少ないのは、政府の対策もさることながら、日本人の衛生に対する高い意識や自粛要請への協力が大きく、医療従事者の献身的な奮闘があってこそだ。

ただ、社会経済活動が本格化する中で、感染第2波のリスクが増すことは確実だが、対策は十分ではない。先日、厚生労働省が新型コロナに感染したことがあるかを調べる抗体検査を行ったところ、抗体保有者の割合が東京都は0・1%だった。人口に対して、確認された感染者数から判断すると妥当と言えるだろう。しかし、圧倒的多数がコロナウイルスにさらされていないわけで、第2波のリスクが非常に高いことの表れと認識しておくべきだ。だからこそ、その波をできるだけ遅らせながら有効な対策を準備しておく必要がある。

――具体的には。

河野 現時点で有効な治療薬やワクチンが開発されていないため、根本的な安心感は得られない状況だ。感染拡大を防ぐには、多くの人が検査を迅速に受けられる体制を準備して感染者を早く見つける以外に有効な対策はない。

確かに、これまでは医療崩壊を防ぐために戦略的に検査を行ってきた。しかし、日本の検査体制が他国に比べて脆弱であることは明らかで、人々が安心して行動するには検査体制の充実が大きなポイントとなる。人的・資金的な投資を強化してほしい。

――感染が心配な人は、誰でも簡単に受けられる体制が必要なのか。

河野 それは現実的に難しいし、多くの人の理解は得られない。保険制度に耐えられるかどうかも問題になろう。やはり、患者本人が体調不良を感じ、医療従事者が「必要」と認めるファクト(事実)の存在が前提だ。検査体制が強化されてきたとはいえ、少し風邪気味で相談に訪れた人に対して、念のため検査できるだけの充実した体制は整っていない。

また、社会経済活動の再開によって対応が迫られるのが、例えばスポーツ選手のように、多くの観客を集める人への検査の実施だ。本人は大丈夫と思っていても、観客側は不安を抱える場合もあり、検査は必要になるだろう。ただ、医療従事者だけに必要性の判断を委ねるのは現実的ではない。費用など経済的な面や検査の実施範囲など詳細な検討が求められる。

PCR検査
PCR検査

――抗原検査や抗体検査なども注目されている。

河野 特に求めたいのが、PCR検査の体制充実だ。厚労省が唾液を検体として使用することを認めたが、幸い、唾液はウイルス発見の感度が非常に良いことが長崎大学の研究結果で判明している。従来の鼻の奥から検体を採取する方法に比べて医療従事者の感染防御の負担も軽減されるので活用に期待したい。抗原検査の検体にも唾液の使用が認められたが、PCR検査ほどの精度には至らない。その点では、PCR検査の迅速化を最優先させるべきだ。

それには、乗り越えるべき課題がある。唾液を検体として使用できるのは発症から9日以内と定められているが、こうした規制は撤廃するのが望ましい。また、唾液は検体を凍らせられないのが弱点で、温度を4度に保ちながら2~3日で検査機関に運ばなければならない。迅速な輸送体制の構築が不可欠である。多くの検査を実施すれば、ヒューマンエラーによるミスも起こり得る。機器を活用した自動化の推進も重要だ。

■高齢者や障がい者ら弱者保護の対策急げ

――第1波の際は医療従事者への偏見も問題になった。

河野 これは、第2波に備えて強調しておきたい点だ。この困難を乗り越えるには一般市民の理解こそ重要だ。長崎県でも感染者をホテルで受け入れようと準備したところ、周辺住民の反対に遭ったという。「皆で自分たちの命を守る」との協力がないと、助かる命も助からない事態が生まれてしまう。

また、他の疾患を抱えた人が、感染を懸念して外来を受診しないケースや、病院側が患者の受け入れを停止する事態にも直面しており、中小の病院を中心に経営状況は悪化している。地域医療を守るためには、こうした病院への緊急的な助成を急いでほしい。

――第2波に備えて、きめ細かい備えが必要な対象は。

河野 高齢者や障がい者といった社会的弱者への対策は喫緊の課題であり、関連施設での感染爆発が危惧される。こうした人たちは、自分で状況を伝えられないことが多い。

行うべきは、IoT(モノのインターネット)化を進め、異常な状況を早く見つける体制の構築だ。例えば、熱や呼吸状態を常に監視しておくなど客観的なデータをネットにつなげて医療施設とも連携させたい。異常を発見できなければ感染の検査はできない。米国でも高齢者施設などで多数の死者が出たが、断じて避けなければならない。政策的な手当てが急がれる。

こうの・しげる 1950年生まれ。医学博士。長崎大学大学院(病理学)修了。同大学大学院医学研究科感染分子病態学講座教授、医学部長、理事・病院長、副学長などを歴任し、2017年10月より現職。