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新型コロナ関連

コロナ禍で台頭、ワクチン・ナショナリズム

2020年9月5日付

新型コロナウイルスのワクチン開発・獲得を巡り、各国の競争が加熱している。一部の国がワクチンを囲い込む「ワクチン・ナショナリズム」の台頭が懸念される中、国際的な共同調達の枠組みづくりも動き始めている。世界の貧困問題やワクチン支援に携わるNPO法人「日本リザルツ」の白須紀子代表にワクチン・ナショナリズムの弊害などを聞いた。

NPO法人日本リザルツ 白須紀子代表
NPO法人日本リザルツ 白須紀子代表

■(大国が開発・獲得競争)他国を顧みず自国優先で価格高騰、入手困難の恐れも

――ワクチン・ナショナリズムの問題点は。

白須紀子代表 先進国を中心に現在、自国民の命を守るためワクチンを独自に開発したり、調達する活動が活発だが、それ自体は一概に否定すべきではない。ただ、一部の大国が、他国を顧みずワクチンを独占したり、国益に利用する兆候が見受けられる。

こうした動きは、ワクチン価格を高騰させ、開発途上国などの低所得国の人々が手に入れられなくなる恐れが非常に大きい。

――過去の感染症でも同様の動きはあったのか。

白須 2009年に発生した新型インフルエンザのワクチンは、少数の先進国が買い占め、大半の国が、すぐに供給を受けられなかった。もし新型インフルの病原性がさらに強毒だったなら、世界中が深刻な危機に陥っていたかもしれない。この反省を生かす必要がある。

――大国のワクチン開発の現状は。

白須 他国に先んじようと多くの国で、ワクチンの治験が最終段階まで進んでいる【表参照】。

諸外国の主なワクチンの開発状況
諸外国の主なワクチンの開発状況

中でも、ロシアは8月11日、国内で開発したワクチンの認可を発表した。“世界初”のワクチンとなるが、治験の最終段階を経たのかは不透明だ。効果や安全性には疑問符が付く。国家の威信や体面を重んじるあまり、安全性を無視する前のめりの開発姿勢が危ぶまれる。

米国は、ワクチン開発・供給を迅速に進める「ワープ・スピード作戦」に約100億ドルの巨費を投じている。しかし、確保できたワクチンを自国優先で使用する態度を隠さない。しかも、世界保健機関(WHO)への最大の資金拠出国でありながら、WHOからの脱退を表明した。国際協調が求められる時に大きな痛手だ。

中国は、官民一体でワクチン開発を猛烈な勢いで進めている。実用化されれば、東南アジアやアフリカなどへ優先供給する姿勢を示すが、低所得国に影響力を広げようとする“ワクチン外交”の狙いも透ける。

米中ロの大国の政治的な思惑にワクチンが利用されることがあってはならない。自国でワクチンが確保できても、他国で流行が続く限り、コロナ禍の危機は去らない。WHOのテドロス事務局長が「全員が安全になるまでは誰も安全にならない」と、ワクチン・ナショナリズムに警鐘を鳴らしているのは、そのためだ。

■(調達の国際枠組み)170カ国超参加、公平な供給めざす

――公平なワクチンの供給体制が求められている。

白須 ワクチン調達の国際枠組み「COVAXファシリティー」が、それに応える制度になるはずだ。

この枠組みは、WHOや国際団体「Gaviワクチンアライアンス」などが主導し構築をめざしている。枠組みに参加する国は、研究開発費などの一定額を前金として払う。出資金は複数の製薬企業のワクチン開発に利用される。実用化されれば、人口の20%相当分を上限に、ワクチンを確保できる見込みだ。低所得国にはGaviを通じてワクチンが供給される。

――何カ国が参加を検討しているのか。

白須 米国が不参加を表明し、中ロ2カ国も含まないが、170以上の国が参加の意向や関心を示している。参加を希望する国は、9月18日までに参加を正式表明し、10月9日までに前金を拠出する必要がある。

この画期的な初の国際枠組みが構築できれば、各国への公平な供給が実現し、ワクチン・ナショナリズムの弊害を大きく抑えられるだろう。

――今月1日、厚生労働省は、日本も国際枠組みに参加する意向を表明した。

白須 一歩前進だ。日本政府は、ぜひ正式参加を決断してほしい。日本がこの国際枠組みに入ることは、低所得国への国際貢献になるだけでなく、わが国のワクチン確保の選択肢を広げることにもなる。日本が参加すれば、国際連携の中核として大きな期待を集めるはずだ。

――公明党は国際枠組み参加を推進している。

白須 公明党は、山口那津男代表自ら、政府に参加を促す発言をするなど、政府・与党を突き動かす原動力になっている。全ての人は尊厳を持って生きる権利がある。まさに「人間の安全保障」を重視する政党ならではの姿勢だと評価したい。

■(低所得国)保健衛生は脆弱、支援探れ

――ワクチン以外で低所得国に求められる支援は。

白須 アフリカなどの国々では、新型コロナの情報が十分に届いていない。どう対処してよいか分からないのが実態だ。

医療や検査体制も脆弱で、手洗いやマスク着用の徹底といった、感染症対策の前提となる保健衛生の環境すら整っていない国もある。

日本は、これまでに国際協力機構(JICA)海外協力隊の派遣などを通じて、教育を含めた保健衛生環境の向上に尽力してきたが、コロナ禍で人員を引き揚げざるを得なくなっている。

人的支援が難しい中、日本はICT(情報通信技術)を活用した遠隔での情報発信など、できる国際貢献を探ってほしい。そうすれば、ワクチン投与に加えて新型コロナの感染対策が何倍にも有効になると期待している。

しらす・のりこ 1948年生まれ。91年12月に「骨髄移植推進財団(現・日本骨髄バンク)」のボランティアに参加し、骨髄バンクの啓発活動などに尽力。2006年から日本リザルツでボランティアを開始し、07年にエグゼクティブ・ディレクター(代表)に就任。世界の貧困や飢餓、結核感染問題などの解決に取り組んでいる。